=storm=

第14話

同日夜、東京。

主不在の直井宅に、1人の訪問者があった。




数日前の升と同じく、事務所から借りた合鍵を使い、「おじゃまします」とつぶやいて室内に入る人影。


その途端、足元に違和感を感じて、見慣れぬカーペットが敷かれていることに気づいた。

同時に、この家に来るのが久しぶりだということにも。


これ、いつ買ったんだろう。そう思いながら照明をつけた。

明るくなったのになんとなく物がぼんやり見える気がして、メガネをかえようかと考える。






リビングはきちんと片付いており、特におかしな様子はない。寝室も、洗面所や物置もだ。

ただ、片付きすぎなぐらい整然としていて、生活感が伝わってこないけれど。


…何だろう、何か足りない気がするのは気のせいだろうか。




首をかしげながら最後の部屋のドアを開けて、初めて彼は息をのんだ。

その部屋に何本も置いてあったベースやギターが、全部なくなっていたからだ。


いや、正確にはベースが一本だけあった。いちばん最近買った、お気に入りだと言っていた特注品。


ただし、弦が張られていない。切られたり、無理にねじとったりしたのではなく、4本とも丁寧に外されている。ボディは磨き上げられてピカピカだ。




この状態は、彼も知っている。当分その楽器に触れるつもりがない時に、こうやって手入れをするのだ。


恐る恐る手を伸ばすと、ふわりと白い何かが舞った。

…ほこりだ。あのきれい好きな人間の部屋に、普段ではありえないような汚れが―――




思わず眉をひそめた瞬間、はっと気づいてリビングへ引き返した。

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