第12話

ほぼ一方的に言いたいことを言い放ったヒロは、そのままブツッと電話を切った。



直『おまえ…すげぇな』

増「ん?」

直『いや、何て言うか…普段カミまくりの増川くんとは思えない格好良さだった』

増「…それだけ減らず口がたたけるなら、1人でも大丈夫だね」



本気だったのか。本当に俺を残して、日本へ?

心細さで、思わず目が泳いでしまう。



増「…チャマ。藤原と秀ちゃんには、俺が説明するから。どこまで上手く伝えられるかわからないけど、頑張ってみる」



こんなことになった理由を。



直『…俺が悪いんだよ。正直にそう言っていいよ。おまえはただ、俺の気まぐれに付き合わされただけだって…』

増「そりゃ正直じゃないでしょ。むしろ出発前に後押ししたのは俺じゃん?」

直『そう、かもしれないけど…』

増「だから俺のことは心配しないで。それより、チャマはこれからどこ行きたい?」



日本にいつ帰ってきてもいいようにはしておくけど、その前にリフレッシュしてきなよ。

そう言う顔は、当然のように俺の帰りを待っていてくれる人のものだった。


“この世でいちばん大切な3人”のうちの1人。

そんな言葉が、目の前で笑う。








翌朝早く、2人で空港へ向かった。



直『秀ちゃんの愛した土地は、満喫できた?』

増「…微妙。雨ばっかりだったし、秀ちゃんと一緒に来たわけじゃないから」

直『ばっかやろ、俺様と一緒だったくせに!』



笑顔が、泣きそう。



増「…本当に好きなら、自分より相手の幸せを祈れるはずなのにね」

直『…俺はまだ、藤くんの幸せを祈れるほど、大人にはなれないよ』

増「でも、藤原の幸せを祈れないほど、子供でもないでしょう…?」






そうして、ヒロは帰っていった。

俺に残されたのは、一枚の航空券。



直『ロンドン…、か』

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