霧雨の凍る夜

第11話

藤くんからヒロの元に2回目の電話があったのは、それから3日後。

雨続きのパリにうんざりして、どこかへ移動しようかと考えていた時のことだった。



増「…そろそろバレてるかもね」



そう言って通話を始めた途端、ヒロの耳元から、俺にまで聞こえるほどの怒鳴り声が聞こえてきた。



藤「おい!チャマそこにいんのか!?」

増「なっ…」

藤「吐け。おまえらどこにいるんだ?場合によっちゃ、俺そこに行くからな」



ヤバイ。

いや、何がどうヤバイのかもわからないけれど、本能的に逃げたいと思った。


今の俺には、きちんと藤くんと相対して、状況や心情を説明できるほどのパワーはない。



増「藤原、今まだロンドン?」

藤「ああ。けど、予定変更。明日には帰るよ」

増「そ…。俺たちは、俺とチャマは、フランスにいる。パリのホテル」



あっさり真実を伝えたヒロに、思わず非難の目を向けるが。

“いいから任せろ”と言うように目配せしてくる姿に、今は黙るしかなかった。



藤「仕事さぼって旅行かよ」

増「否定はしないね」

藤「ふざけんな、俺たちがどんだけ心配してるかわかってねぇだろ」

増「何を心配してるの?自分とか秀ちゃんのこと?それともレコーディング?」



切り捨てるような声。

あまりに冷たい響きに、電話の向こうの藤くんも一呼吸遅れたのがわかった。

その隙をついて、ヒロはさらに畳みかける。



増「わかった。俺は日本に帰る。けど、チャマはまだ帰らせないよ」

藤「…何、言って…」

増「チャマが今どんな気持ちでいるか、全然理解出来ていないおまえに、会わせるわけにはいかない」



俺の気持ち?俺自身にもどうしようもない、この不安定な気持ちを?



増「ほんの少しでいい。自分がチャマにどんなに愛されてたか、感じてみろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る