=squall=

第10話

逃亡者たちが、異国で形だけの口づけを交わしていた頃。

升は、増川の自宅を訪れていた。


前日からスタジオに姿を見せず、何の連絡もない2人。

非常時用に事務所に預けてある合鍵を借りた。今が非常時なのか、知る由もなく。


…室内には特に荷造りした形跡もなく、雑然とした日常そのものが残されている。



升「着信拒否されてるのは、俺だけかねぇ…」



そう呟いた時。ポケットの中で、また違う異国からの呼び出し音が鳴った。



升「はい」

藤「ヒロの電話、つながったぞ」



名前も名乗らず慌てたように喋る口調は、相手も焦っている証拠。



升「どこにいるかわかったか?」



1人だけの行方不明なら、こんなに急いで藤原に協力は求めなかったかもしれない。ただ、現状では話は別だ。



藤「声が沈みまくってたから、あんまり突っ込んだことは聞けなかった。でも元気は元気みたい」

升「………そう、か」



とりあえずほっとするが、すぐに苦い思いがこみ上げてくる。

…あの2人は一緒にいるのだろうか。どうして自分1人だけ残していったのか。いくら問うても、答は出ない。



藤「秀ちゃん…?」

升「………」

藤「…じゃあ、またかける。レコーディングのことは心配しないでいいから…」



上の空の升を慮ったのか、そう言ってロンドンからの電話は切られた。






ふと、ギターの隣に置かれたバドミントンのセットが目に入る。

わけのわからないイライラに襲われ、八つ当たりのように叫んだ。



升「おまえ、藤原の電話には出るのかよ…!!」

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