第9話
ばかでかいキングサイズのベッドに寝転び、やり場のない気持ちを吐き出した。
増「さみしい?」
直『べつに』
増「悲しい?」
直『…べつに』
ただちょっと、閉じた目が開けられないだけ。
増「そういえばさ、秀ちゃん、彼女と別れたんだって」
直『へぇ…知らなかった。チャンスじゃん』
増「目の前のおまえを見てると、とてもチャンスだとは思えないけどね」
直『…そんなに凹んでるかな。俺』
増「まさに当たって砕けた直後、そのままどっかの海に身投げしても不思議じゃない惨状だよ」
閉じた目から、なお涙が流れる。
ただ目をつぶっているだけだと、まぶたの裏にあの人が浮かんでくるから。
唄う横顔、ギターを持つ腕、手を振る姿…、俺に向けられた笑顔の全てが。
…だから、涙を。ここ数日、常に熱をはらんだような頭のせいで、夜もうまく眠れない。
増「秀ちゃんが、俺を…男を恋愛対象にするとは考えられない」
直『………』
増「もともと男が好きだって言うならともかく、どうして“その人の時だけ”男を好きになっちゃったかねぇ。俺もおまえも」
言っても仕方のないこと、言うなよ。
増「適当なところで切り上げて、日本に帰ろうと思ってたんだけど…帰りたくないな」
“帰れない”の間違いじゃないのか。
そう言おうとしてやめた。どんな理由であれ、今隣にヒロがいてくれるのは心強い。
増「雨ひどいし。やむまでは帰国延期」
…やっぱり、弱い者同士の慰め合いかもしれないけれど。
ふと、視線が合った。
―――キスでもしてみる?
目を細め、そっと顔を寄せ合う。
大きなベッドの真ん中で、互いに別の相手を想いながら。
直『…感じねーな』
増「お互い様でしょ」
苦笑するような低い声。俺たちを部屋に閉じ込める、雨。
出発の日、空港を包んでいた雨と同じだ。
無限回廊のなかを行ったり来たりしながら、一歩も外に出られない。
身体も心も、こんなにも藤くんから遠ざかったはずなのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます