第8話

直『好きだって、言ったんだ』

増「…うん」

直『たとえバレバレでも、言っちゃいけないってことくらい分かってた。けど…あの時、気がついたらポロッと口から出ちゃってて…』








あの夜、荷造りの手伝いだとか壮行会だとか言って、藤くんちに行った俺。

小声で歌を口ずさみながらトランクに荷物を詰め込む彼を見つめていたら、気持ちが自然にこぼれ出た。


まるで、いっぱいになったコップから水が溢れるように。どうしようもなかった。酒なんか全く飲んでないのに、ね。


一瞬目を閉じて一拍おいた後、藤くんは「俺も好きだよ」と笑った。

俺はその笑顔が直視できなくて、『俺と同じくらい好き?俺と同じ意味で好き?』と言った。言ってしまった。




それから、具体的にどんな会話をしたかはよく覚えていない。脳が蓋をしているのかもしれない。

ただ、最後のくだりだけははっきり耳に残ってる。



直『俺、女だったら良かったなぁ。そしたらマジで藤くんの彼女になりたかった』

藤「やめろよ、冗談きつい…」

直『…え?』

藤「俺にとって“この世でいちばん大切な3人”のうちの1人を、今さら恋愛対象にしろって方が無理。男とか女とか言う以前の問題だろ」






藤くんのことが好きな俺。

俺のことが好きじゃない藤くん。




男だからという理由で拒否されるのは、予想していた。むしろ当然のことだと思う。

しかし、それ以上につらいのが「おまえだから」という理由。




―――好きになれなくてごめんな。チャマ。

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