第7話

しとしとと降る雨のなか、言葉少なにパリの街へ戻り、ホテルに辿り着いた。

シャワーを浴びて、ベッドに寝転ぶ。


不意に、携帯の鳴る音が聞こえてきた。

俺のは日本に置いてきたから、これはヒロのに間違いない。


携帯が発明されたおかげで、いつどこにいても世界中と連絡が取れるようになった。

…それはつまり、あんな小さな機械を持っている限り、“鳴らない”という事実からも逃げられないということに他ならなくて。


画面の表示を見たヒロが苦笑する。



増「最終学歴が中卒の誰かさん」



そう言って、携帯を耳に当てた。





――はい、もしもし。

――うん。うん…大丈夫。それは、うん。

――そっか、良かったじゃん。

――わかった。うん、じゃあまた…





自分とは直接関係ないはずの短い通話に、俺は何を思ったのだろうか。

目から涙が溢れてきて、止まらなくなった。雨とは違う、熱い熱い水。


どうやら藤くんは、俺たちが日本にいないことを知らないらしい。かすかに聞こえてしまったあの声が、俺の頭をおかしくする。

でも、彼が電話してきた相手はヒロだ。俺じゃない。



増「元気そうだったよ」

直『…そっか』

増「ね。あいつに何言われたの?」

直『………っ』

増「ロンドン行く直前。何かあったでしょ、絶対。でなきゃ今、こんなとこまで来てないよね」



俺も似たようなもんだから、なんとなくわかっちゃうんだよ…。

優しすぎる友人は、そう言って苦しそうに微笑む。


これじゃあ、傷のなめ合いだ。

そうわかっていても、雨と涙は止まらなかった。

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