第4話

増「どこ行くつもりだったの?」



椅子にへたりこんだ俺の手から、航空券が抜き取られた。

搭乗案内が響いてるけど、もう動く気力もない。せめて払い戻しとか出来ないもんかね。



増「シャルル・ド・ゴール?…あぁ、フランスか。かっこいい行き先じゃない」

直『べつに、行き先はどうでも…。キャンセル待ちでいちばん早かったのが、それだっただけだから』

増「……俺も行こっかな」

直『えっ?』



思わず顔を上げた。何言ってんの、こいつ。



増「行ってもいい?一緒に」

直『で、でも…俺らまでいなくなったらダメでしょ。秀ちゃん1人でどーすんの』

増「じゃあ、俺と秀ちゃんの2人を残してくなら大丈夫なの?そういうつもりだったわけ?」



ヒロの目から穏やかさが引いて、息が詰まった。と思った次の瞬間。



増「俺の分の席もあれば、おなぐさみだね」



そう言って、止める間もなく歩き始める。

…俺も身勝手なら、ヒロも身勝手だ。








数分後、少し離れたカウンターから嬉しそうに手を振る笑顔が見えた。幸か不幸か、席が確保できたらしい。


しかしここに来て、肝心の俺が迷い始めた。

どうしよう。こんなことしちゃって、本当にいいんだろうか。

でも、こんな状態で仕事に行っても、まともな音楽が出来るか?それならいっそのこと…


うんうん唸っている俺に、大急ぎで着替えとかを買い込んできたヒロが言う。



増「行こうよ。一生に一度の贅沢かもよ」

直『…刹那的すぎるだろ』

増「最高のスパイスだね」



その即答に、思わずにやっと笑った。中学の頃から何にも変わらない、バカな仲間同士の連帯感。



直『なんか、急にワクワクしてきた!』

増「サボりの快感だよ!」



意味もなくハイタッチしちゃう。

…帰ってきたら、秀ちゃんに殺されるだろうけどな。間違いなく。

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