第5話
「不満じゃなくて、不安なのか」
しゃがみこんだ俺と同じ目線で、サクラは何やら自己完結している。
そうか、そうだよな、そういう年頃だもんな、とかブツブツ呟いてる。
思わず苦笑した。
不安要素をいっきに自分の外に出したことで、少しだけ気分が軽くなった単純な俺。
隣でささやくように流行歌をハミングしている、やっぱりよくわからない男。
何も解決してないのに、何がこんなに楽しいのか。
月明かりに照らされた影のコントラストは妙に清々しくて、いつしか2人でギターを奏でながら何曲も何曲も歌っていた。
見せ物状態でそんなふうに時間を過ごしていたら、足を止めてギターケースに小銭を入れてくれる通行人が出始めた。
「ありがとうございます!」
俺より先にサクラがそう言う。
まじでサクラのつもりか?
何だよ、金は俺のもんだかんな!
「わかってる。それよりフジ」
急に真剣な目になったそいつは、俺に小さな紙片を握らせてきた。
何かと思って開いてみると、それはとある音楽事務所主催のバンドコンテストの応募要項だった。
自分の目が冷えてゆく感覚が恐ろしくて、思わずすっと目を細める。
「無理にとは言わない、他のメンバーの意向もあるだろうし。でももし参加する意思があるなら…。来週もまたここに来るから、返事を聞かせて」
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