不安

第3話

「なんか複雑なコード使ってるね」



本日のサクラの第一声が、それだった。

まぁ、うちの増川くんもよく「難しい」と言ってますし。


教えてくれないかと言われたので、その曲のBメロからサビにかけて、ゆっくり弾いた。

夜空に、2人の控えめな声が響く。

意外と高いサクラの歌声は、鼻にかかったような独特の色をしていた。


しかしこの人、ほんとに何者なんだろう?

数日おきに顔を見せるようになって一ヶ月ほど経つが、年齢も何の仕事してるのかも知らないし、ヒマなのか忙しいのかもわからない。

そして…



「…悩みでもあるの?今日、いつもと音がちょっと違う感じがするけど」



そして、俺自身も気がついていないような微妙な揺らぎを、敏感にキャッチしやがる。


図星だった。

昨日、いつものスタジオにヒロ、チャマ、秀ちゃんと4人で集まった時、ちょっと上手くいかなかったのだ。






曲はある、練習もしてる。

チームワークも良いと思う。

時々ライブもやってるし、テープ作ってみよう、とかいう話もしてる。


でも、これから先のことは全然見えない。

どうすればいいのかわからない。

うまくいく保証なんてどこにもない。


俺は高校やめて、親元も出て、なんとか細々生きてるだけの毎日。

出来ることっつったら、ギター1本抱えて声を張り上げるくらいが関の山だ。


他の3人は、そんな俺の作る曲を弾いて…

みんなみんな、メシ食って、学校行って、働いて、また集まって…

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