第2話

次の日も、その男は俺の前に現れた。

まぁ、俺はいつも同じ場所で歌ってるから、会おうと思えばここに来るのがいちばん手っ取り早いんだけど。



「きみ、名前は?何て呼べばいい?」



一曲終わった途端、妙に親しげに話しかけてくる。

フジ、と答えると、そいつは細い目をますます細めて笑った。


お返しのように相手の名前も聞くと、返ってきた答えは「サクラ」だった。

何だぁ?変な名前。



「いいじゃん、フジもサクラもきれいな花の名前だし。それにほら、客寄せ係の盛り上げ役的な知り合いって意味でも、俺はサクラ役じゃん」



何なんだコイツは。完全に俺の考えを読まれてるのが気に入らない。

てか、いつから知り合いになったんだ。

だいたいサクラの役なんて頼んでねーよ、俺は1人でも歌うんだから。



「世の中には変なヤツが沢山いるんだよ。それに俺は男のストーカーするほどヒマじゃないから。そんな胡散臭そうに見るなって(笑)」



…そーですか。

なんだかもうどうでもよくなってきた。



「そうそう。現実を受け入れつつ夢を追ってもがくのが、若者の正しい姿だよ」



…うるせぇよ、説教すんな。

そう思ったけど、それからも頻繁に顔を見せるサクラと、俺は少しずつ言葉を交わすようになっていった。

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