出会い
第1話
「いい曲だね」
一曲終わったところで、声をかけられた。
ストリートで歌ってる自分に、そんなふうに話しかけてくれるやつは珍しい。
ありがとうございます、と、ぼそぼそ返事をするのが精一杯だった。
細い目に柔らかそうな髪、背はそんなに高くないが、明らかに俺より年上であろう…男性だ。惜しい。
女性ならいいチャンス(?)だったのに。
俺の名前は藤原基央、17歳になったばかり。
高校は去年の秋にやめた。
実家を飛び出して、東京のボロアパートの一室に住んで、バイトと音楽で生きてる。
昔からつるんでバンドやってる仲間はいるけど、そいつらは普通に高校やら専門学校やら行って地道な生活をしてるから、バンドで集まる時くらいしか会えない。
だから、俺はよく1人でストリートで歌っている。
アコギと声だけで、マイクも使わずに。
たまにギターケースに入れてもらえるわずかな金銭も、俺への評価だと思うとマジでありがたい。が。
今、目の前に立つその初対面の男は、なんと福沢諭吉の絵が描かれたお札をギターケースに放り込んだ。
びびった俺が思わず止めようとすると…
「きみの唄に対する、俺からの評価だ。恩とか義理とか、そういうつもりで入れたんじゃない。気にしないで、とっといて」
べらべらと一方的にそう言うと、正体不明の男は立ち去ってしまった。
わけがわからないままだったが、最後に言われた言葉は正直嬉しい部分が大きかったので、ありがたく諭吉はいただくことにする。
…正直、少々家賃や食費に困っていたところだったので、貴重な収入だ。
その夜は、ボロアパートのボロ布団もいつもより少しだけあたたかく感じた。
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