第20話

===藤視点===



俺が目を覚ましたとき、すでにあたりは夕暮れ時だった。

病院でチャマを見て以降の記憶が曖昧だが、おそらく升や増川が、この教団本部まで連れ戻してくれたのだろう。



藤「だせぇ…」



考えてみれば、俺はずっとあの2人に甘えてきた。

今回のチャマや望月の一件にしたって、あいつらは事前に色々調べて策を練ってくれていたようだし。

すべて、俺のため。

俺を傷つけないように。守るように。

側近ならそれくらい当たり前だと言わんばかりに。



藤「秀ちゃーん、ヒロぉ」



けほけほと咳が出る。のどが妙に乾いている。

何か飲むものがほしい。

そこに、懐かしい声が響いた。



―――基央くん?起きたの?

藤「えっ?…エマさん?」



引退したはずのあなたが、どうしてここに。

そう思いながらも、昔からずっと変わらない優しい手から、お茶を受け取る。

彼女はその間ずっと、静かに笑っていた。

そして、俺が一息ついたところで口を開く。



―――升くんと増川くんなら、望月の家に行ったんだと思うわ。

藤「望月の!?そんなバカな!」



ソファから転げ落ちるようにはね起きた。

額にのせられていたタオルと、身体にかかっていた毛布が床に落ちた。

…これだって、あの2人が用意してくれたに違いない。

俺のために。すべて俺のために。

俺はあいつらからこんなに色々もらっているのに、何一つ返せていない…


いや、待て。

ほんの少しだけでも、返す方法があるかもしれない。



藤「エマさん、俺も行ってくる」

―――そうだと思って、車を用意してあるのよ。

藤「…ありがとう」



あぁ、俺はこの人からも返しきれないほどの恩をもらってる。



―――さ、行きましょう。私も行くわ。

藤「…うん」





俺はこの瞬間、教祖でもプリンスでも、ましてや神でもなかった。

俺のために危険を承知で行動してくれた升と増川のために、家を裏切ってまで俺たちを選んでくれたチャマのために。


望月の家に乗り込む。

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