第13話

国木田医師が寝ていたのは、普段は手術患者の家族の待合室として使われている部屋だった。

ベッド代わりの机と長椅子、簡易につながれた数種類の点滴。



国「…藤原くん…」



かすれた声で口にしたのは、彼にとってかけがえのない“跡継ぎ”の名前だった。

そして、もう一人の。



国「きみ…増川くんだね。放射線の」

増「はい」

国「山村医長から、話は聞いてますよ…ゲホッ!」

藤「先生!だめです、まだそんなに喋っちゃ」

国「いや。今が言う時なんだ。山村は、きみのことをかなり評価しているようだ。…どうかこれからも、藤原を…藤原先生を、よろしく頼む」



意外な言葉に、若手の2人は顔を見合わせる。



国「もう40年近く前…、この病院ができるずっと前のことだ。私と山村は、大学の同期だった。附属の大学病院に勤めはしたものの、今の君たちと同じようにどこの派閥にも馴染めず、2人でつるんでいたよ」

増「…そうだったんですか…」

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