派閥

第11話

不眠不休で丸2日近く働いた増川は、その晩、泥のように眠りこんだ。

放射線科の狭い部屋で、寝袋にくるまって。


すぐ傍で、直井も眠っている。

冷えた月が、窓の外でぼうっと光っていた。




そこに、藤原と升が会議室から戻ってきた。

院長と理事長から呼び出されていたのだ。


なぜ会議の結論を待たずに、しかも無制限受け入れなどという無茶をしたのか?

混乱が起きるとわかっていたのに、どうして升は止めなかったのか?


さんざん追及され、叱責された。




会議室には、山村医師も呼ばれていた。

院長の言い方を聞いていると、どうやら上層部は、

「藤原が若さゆえの正義感で言い出したことを、山村が自分の名声を上げるために利用しようと考え、事務局も巻き込んだ」

と考えているらしかった。




升「親父…いや、院長。それは違います。山村先生は自分のことなんて考えていませんでした。目の前で未曾有の大災害が起きて、一刻を争う状況で……国木田先生のかわりに、決断してくださったんです」


藤「その通りです。いつものように国木田先生がいらっしゃったら、即断されていたはずです」




そう言いながら、藤原は今さらのように思い出していた。

自分を医長に抜擢すると言ったとき、国木田がどんな目をしていたか。


彼は事あるごとに、「今の若い医師には、医師としてもっとも大切な能力である“決断力”が足りない」と呟いていた。


派閥争いが激しい内科にいながら、誰とも馴染めず、同期とばかりつるんでいた自分。

彼はその姿を見て“自分を持っている若者”と評してくれたのだろうか。


国木田先生が目覚めたら、聞いてみよう。

そして、伝えよう。




俺も派閥に属してますよ。しかも科を超えて。

ただし、カネにも権力にも縁のない、ただのバカ4人組ですけどね―――――

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