第9話

増川の絶望の叫びを聞いて、山村医師が救急処置室へ走った。



山「国木田!」



国木田医師は、前の晩から現場近くの親戚の家に泊まっており、火災に巻き込まれたらしい。


火傷は命に関わるレベルではない。

しかし、化学薬品の濃霧をまともに浴びて倒れ、呼吸もままならない状態だという。

山村医師の感情を押し殺した声が響く。



山「藤原くん、すぐ放射線科の看護師長を呼んで。それから酸素5リットルとアストラップ、血算も至急で。解毒剤は?」

藤「今、自衛隊のヘリが運んでます。埼玉から」

山「急げ…時間勝負だ…!」






藤原からその話を聞き、升は走った。


ヘリポートから緊急車両で運んだとしても、国木田医師の命には間に合わない。

それなら一か八か、ヘリをここまで飛ばして、直接落としてもらうしかない。


薬品は厳重に密封・梱包してあるから、広大な病院の中庭にテント布を張って落としてもらえば、ダメにはならないはずだ。




升の行動は迅速で、かつ無駄がまったくなかった。

応急処置を続ける増川も、受付で人をさばく直井も、看護師に指示を出す藤原も、全員が彼を信頼していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る