第3話

大病院ゆえの弊害と言うべきか。

内科や外科、呼吸器科といった患者数の多い科は、当然医師の数も多い。


そのなかで若くして医長に選ばれた藤原の実力は、まさに推して知るべしではある。

が、同時にそこには、派閥とか権力とか、そういう医者としての実力以外の部分でのパワーバランスが見え隠れもしているのだ。


内科医長の座に10年近く君臨する国木田医師は、ある意味では院長や理事長よりも発言力を持っている。


その彼が、次の医長に藤原を指名した。

しかもただ椅子を譲るのではなく、自分と同じ役職につかせ、“内科医長が2人”という事態を作り出したのだ。


藤原がトイレに立った合間に、3人はそのことについて話した。



直「国木田先生は、どうして藤くんを指名したんだろう」

升「……それはやっぱり、藤原の実力を買ってのことだろ」

増「まぁ、内科は特に派閥がすごいみたいだし、実力のある若い人間を自分の手元に置いておきたいってことなんじゃない?」



増川の所属する放射線科は、典型的なスペシャリスト集団だ。

もちろん医者ではあるが、放射線を使った診断や治療すべてを専門とするため、どこの科からも平等に必要とされ、頼られている。


したがって必然的に院内での立場も中立になり、権力だの派閥だのといったことには関わりにくい。



直「でも、藤くんってどこの派閥にも属してないじゃん」

升「確かに。あいつは一匹狼だよな。いくら優秀でも、藤原ひとりだけを押さえたって、権力争いの材料にはならないと思う」

増「じゃあ、なんで?」

升「…わかんないな」

直「…なんか…藤くん、大丈夫かな」



そこに、藤原が戻ってきた。

4人は再び元の空気になり、デザートの盛り合わせに競争のように手を伸ばし始めた。










そんな昇進祝いの宴から2ヶ月後。

事件は起きた。

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