第8話

…けどさ、チャマ。俺、最近ちょっと疲れてるみたいなんだ。

今夜みたいにうまく眠れない日もある。演奏の途中で、妙に失敗する回数も増えた。


なぁ、そろそろ帰ってこないか?

升も増川もいるけど、やっぱりもう1人いてくれないと、俺たちは完全じゃないんだよ。


また必ず会おうって言ったじゃん。

戦争は終わったんだから、もう帰ってこれるだろ?






気がついたら、駅へ向かう道にいた。

なんとなく自転車にまたがった。


初夏のあの日、チャマを乗せて走った道。

もう少し行くと、坂道が見えてくるはず。




なぁ、また後ろに乗せてやるからさ、今度こそ時間を気にしないで、川縁で喋ろう?

そうだ、坂道は今度はおまえがこいでみろよ。あれすんげぇキツいんだから。


…あの時話してた、どうしようもない青くさい議論も、続きをしよう。

早くしてくれないと、おまえの顔も、声も、どんどん抜けてっちまう。


思い出すなんて嫌だ。怖い。どうしようもなく怖い。

おまえがいてくれないと、俺は…



藤「頼むよ…このままじゃおまえのこと、どんどんわからなくなっちまうよ」



思わず自転車を止めて、口に出してしまった。その途端。




直『“どんなに近い人間でも、わかんないことはあるよ”』

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