ひとり

第6話

8月に入ったある夜、こんな小さな街にも空襲があった。

山の方が少し燃えただけで、大事には至らなかったけれど。


なんとなく、日本はもうどうしようもないんだな、と思った。






それからまもなくして、戦争は終わった。

日本が負けたんだと、親や祖父母の世代の人たちは嘆いていた。


俺たちからしてみれば、そんなもんだろうという感じだったけれど。

だって、特攻隊なんかじゃ、俺より若い奴が山ほど死んでんだぜ?

どうしてこんなふうになるまで、誰にも止められなかったんだろう…



升「フジ、そろそろ行かないか」



升と増川が迎えに来た。

そう、今日も演奏の依頼がある。頭のなかだけで色々考えて、熱くなっている場合じゃない。




秋風のなかを自転車でつっきり、3人で隣町の学校へ出かけていく。

チャマを乗せた時と比べて、錆び付いた気がするなぁ。ブレーキも少し弱くなったかもしれない。




チャマの手紙は、終戦を迎えてからぱったり来なくなった。

あの当時、彼の所属する部隊は中国の奥の方に駐留していたらしい。


その辺一帯は、終戦の前後にロシアに占領されたという噂だ。軍人・民間人を問わず、たくさんの日本人が犠牲になったと。




…余計なことは考えないことにする。


俺たちの入場券と、チャマが戦場まで持って行ったリール。

こんなに想いのこもったお守りが効かないんだったら、神も仏も人も、金輪際信じない。

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