第5話

にぎわいだした午前中の街を横目で見つつ、ゆっくり帰り道をたどった。


自転車ってこんなに軽かったっけ。

何だか1人ぼっちにされたみたいだなと思いながら、それでも家まで辿り着く。


と、そこに升と増川が来ていた。



升「見送り、済んだのか」

藤「…ああ」



俺は、ポケットから3枚の紙を取り出した。



藤「ちょうど良かった。これ」

増「何?」

藤「駅の入場券」



帰り際に駅員さんに頼んで、3人分の入場券を発行してもらったのだ。

切符ではなく、これから5年先までの有効期限が記された、正式の書類だ。そんなに待ちたくはないけれど。



藤「チャマを迎えに行くとき、みんなで使おう」



3人とも絶対なくさないように、大事にしまった。

俺たちの心のお守りだ。






その後、戦況は悪化の一途をたどった。

俺たちは3人で、あいかわらず学校や工場での演奏を続けた。


戦場からは、時たまチャマの署名が入った手紙が届いた。

内容はたいてい、元気でやっていること、楽士の演奏が部隊の中で好評であること、日本軍は中国でも人気であること…


検閲が当然入っているだろうから、どこまで本当かはわからないが、ともかく彼に手紙を書くくらいの余裕はあるということが、何よりも嬉しかった。

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