第5話

直『“藤原がいないと何も出来ないのに、チヤホヤされてんじゃねーぞ”って。でもあいつがキレたポイントはそこじゃないんだ』



それは、俺たちを傷つける言葉としては最もポピュラーなもの。そこまでなら、無視しておけばいいだけの話。でも。



直『“あの藤原ってやつも、あんな言っても仕方ないようなぼやきばっかり詩に書いて、そんで馬鹿な女たちからキャーキャー言われて、金稼ぎまくってんだろ”って』

藤「……」

直『“テレビにも全然出ねーし、気取ってんじゃねぇぞ。本当に楽な商売で羨ましいよ、その点俺なんか…”まで言ったところで、ヒロが思いっきり胸ぐらつかみあげた』

藤「…かっけぇー」

直『でしょ?かっこいいよね!?』

藤「うん」



その後の“レム”の件については伏せておいた。冷静に思い返すと、かっこよすぎて少々サムい気もするので(笑)



直『俺も何か言ってやれば良かった』

藤「ん?」

直『藤くんが今日何してるか、とか。藤くんがどれくらい曲作り頑張ってるか。最近、藤くんがどれくらい、曲…なかなか出来なくて、悩んでるか…』



勢いで言ってしまってから、はっと口を閉ざす。これは、現実に曲と格闘している彼の前で言ってはいけないことだ。

しかし謝りの言葉を口にしたのは、



藤「…ごめん」

直『えっ』

藤「俺、八つ当たり多いよな。最近」

直『え、いや、そんな』

藤「なんか、うまくいかなくて」

直『そんなこと…絶対ないよ』

藤「“ベンチとコーヒー”の時みたいに、すらすら書けたらいいんだけど」

直『…あれそんな早く書けたの?』

藤「それはもう、なにしろ恐れ多くもチャマ様の御尊顔を思い浮かべながら…」

直『…ふふ。ふふふっ』



やっぱり俺も怒鳴りつけてやれば良かった。

俺たちは腰巾着なんかじゃない。


藤くんはもしかしたら1人でもミュージシャンとしてやっていけるのかもしれない。

でも現実には、俺たちの存在を望んでくれている。4人で一緒に演奏したいと。


この人は確かにすごい人だけど、世間から認められて賞賛されているけれど、それは見えないところで重ねている努力によってもたらされるもの。



直『俺もヒロも、その藤原ってやつから“一緒に演奏したい”って言われてんだぜ!』

藤「あら」

直『しまった~、自慢し忘れてた~』

藤「ほぉ、自慢してくれますか」

直『そりゃそうだよ。俺の一生かけた自慢だよ!』

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