第3話

増「チャマ?どっち行くんだよ」

直『え、あ』

増「秀ちゃんち向こうだろー」

直『うん…』

増「なに、気持ち悪いの?そんな飲んでたっけ」

直『…ごめん、俺やっぱ実家帰るわ』

増「えっ」

直『秀ちゃんによろしく!』



今さら俺からよろしくとか言われても、秀ちゃんも困るだろうけど。

ダメだ。今の俺には、2人といつもみたいに過ごすことは出来そうもない。


わけのわからない焦燥感に追い立てられるように、来た道をかけ戻った。








金曜の夜だってのに、妙に静かだなぁ。

地元でいちばんの大通りは、なんだかひっそりしている。


もうバス終わってるのか……こんなに暗くて人がいないなんて、変な感じ。

俺、自分でも気づかない間に、そんなに東京に染まっちゃったのかな。


うつむき加減で、てくてく歩く。ベースを持ってないと、なんだか手持ち無沙汰だ。

俺、今まで1人の時間をどうやって過ごしてたんだっけ?

まいったな…不安定気味。ヤンキーでも何でもいいから、その辺にいてくれないもんかね。




あ、コンビニ発見。あんなとこに新しく出来たんだ。

ヤンキーどころか店員の姿も見当たらないけど、入ってみるか。


いちばん目立つ場所に花火が売られていた。もう9月だけど、売れ残りかな。

そういえばこっからだと海まで歩いて行けるんだっけ。



直『すいませーん』



……買っちゃったよ。しかも、こんなに買ってどうすんだよってくらい、一抱えも。

独り花火か?って、俺いちおうミュージシャンなんですけど!なんでこんな寂しいの!まさかの孤独な音楽家ですか?




…急に上がったり下がったり変なテンションで、感情の持って行き場がない。

そもそも、自分が今どういう感情で、どうすれば気が晴れるのかがわかっていない。


やりきれなくて、夜の真ん中に立ちつくしていた時、携帯が鳴った。何かを期待して液晶を見る。

そこには、【秀ちゃん】と表示されていた。



直『はい』

――藤原じゃなくて悪いな。

直『…べっつにぃ』

――なんだ、元気そうじゃん。

直『そっちこそ、風邪は?同窓会サボりの口実?』

――それヒロにも言われたなぁ。熱があったのは本当だよ。

直『ふーん』

――んで、何。実家なの?

直『…うん』

――もう着いた?

直『……………うん』







嘘を、ついた。

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