第39話 陰陽頭の試練
1568年11月、京の情勢はますます不穏さを増していた。
義昭が新たな将軍としての職務を遂行し始める中、宗則は陰陽師としての役割を全うするための試験を受ける日を迎えていた。
冷たい秋風が吹き抜ける夜に、宗則は静かに陰陽寮へ向かい、その心には緊張と意気込みが交錯していた。
宗則は陰陽寮の重厚な門をくぐると、冷たい空気が漂う大広間へと足を運んだ。
室内は静寂に包まれ、蝋燭の灯りがかすかに揺れる中、重役たちが見守っていた。
多々良昌隆の厳しい目が宗則を見つめ、その視線には疑念と試験の重要性が滲んでいた。
「宗則殿、今こそ陰陽道の知識と実力を示す時です。試験を行います」
多々良は厳かに宣言した。
「準備はできております」
宗則は深く息を吸い、冷静にその場に立った。
冷え込む夜の広間。
隙間風が心に染み渡り、蝋燭の淡い光が揺れる中、静かな緊張感が広がる。
「星の動きを読み取り、不穏な兆しを示せ。陰陽道の基本である天文の知識を示せ」
多々良は指示を出した。
宗則は天文の知識を駆使して星空を観察し始めた。
広間の外に出て、夜空に輝く無数の星たちが彼の心を静かに包み込む。
一瞬ごとに変わる風の流れや、微かな気配を感じ取ろうと、宗則は深い集中状態に入った。
夜空に描かれる星の配置、風の流れ、そして微妙な気象の変化を注意深く観察した宗則は、その異常を感じ取り、やがて口を開いた。
「星々の動きが示すところ、北方に不穏な動きを感じ取ります。これは戦の予兆ではないかと。」
宗則は冷静かつ自信を持って言葉を紡いだ。
多々良は眉をひそめ、重役たちと顔を見合わせた。
周囲の蝋燭の揺れがその厳しい顔を照らし、彼の不満が静かに現れた。
「具体的な証拠を示せる兆候はないのか?」
と厳しい声で問いかけた。
宗則は冷静に答えた。
「具体的な動きは確認できるまで時間が必要です。しかし、星の配置や風の流れに異常があります。」
多々良の顔には苛立ちが浮かび、その声はさらに鋭くなった。
「それでは納得できん!ただの予感で判断するな!陰陽道を軽んじることは許されん!」
その時、賀茂 美玖が冷静に口を開く。
「多々良様、お気持ちは理解しますが、星の動きや風の流れが示す異常は私も確認しました。宗則殿の判断は間違いではありません。」
賀茂の言葉に、他の重役たちも頷き、同意の意を表明し始めた。
「私も同じ意見です。宗則殿の知識と洞察力は確かなものです。」
重役たちは次々と賛同の声を上げる。彼らも同じ結果を読み取っていたのだ。
多々良はその状況に渋々ながらも引き下がるしかなかった。顔は厳しいままだが、言葉を選んだ。
「認めざるを得ないか…」
「宗則殿の洞察力は確かであり、その知識には疑いがない。合格といたします。」
多々良は無感情に宣告したが、その瞳にはわずかな屈辱が見られた。
試験が終わり、宗則は深く一礼し、
「ありがとうございます。」
と答えた。その心には、試験の合格と同時に、次なる試練へと向かう決意が存在していた。
冷たい夜風が宗則の頬を撫でた。
星の光が心を照らし、彼の決意は新たな力を得た。
京都の情勢は依然として不穏だが、宗則は義昭と信長の信頼を胸に秘め、次なる試練に立ち向かう覚悟を固めた。
「戦乱の世を生き抜き、平和な世の到来を願う。信長様と義昭様のお力添えがあれば、その日を迎えられると信じています。」
宗則の心には新たな力強さが戻り、次なる試練に立ち向かう覚悟を胸に秘めていた。
それは新たな時代を迎えるための初めの一歩であり、宗則の運命が大きく動き出す瞬間であった。
続く
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