第38話 保守勢力と革新勢力

 京の街並みは賑わいを見せ、信長の勢力がますますその強さを増す中、宗則は陰陽師としての職務を本格的に始めていた。

 しかし、その新たな役職は彼にとって祝福ばかりではなかった。

 周囲には旧勢力が根強く存在し、宗則の存在を脅威と感じている者も多かった。


 その日、宗則は朝廷内での陰陽道に関する会議に出席することとなった。

 これまでも何度か顔を合わせたことのある陰陽寮の重役たちが集まったその場で冷たい視線を浴びせる中、宗則は冷静に席についた。


 会議の最初、陰陽寮の重役で保守派の中心人物である多々良 昌隆が声を上げた。


「宗則殿、信長様から任命されたとはいえ、陰陽道の知識をどれほどお持ちなのか、その実力を見せてもらいたいものだな。」


 その言葉に場が静まり返る。宗則は冷静に多々良 昌隆を見つめ、答えた。


「私は信長様からの命を受けて、陰陽道を学び続けております。しかし、知識だけではなく、実践を通じてその力を示すことが大切だと考えています。」


 宗則の言葉には自信が溢れており、その言葉が陰陽寮の重役たちに少なからぬ印象を与えた。

 しかし、多々良 昌隆はなおも挑戦的な口調で続けた。


「では、今後の儀式や祈祷でその実力を見せていただけるのであろうな?」


 宗則は一歩も引かず、冷静に応じた。


「そのような機会があれば、私も最大限の力を尽くします。」


 そのやり取りが終わると、会議は進んでいったが、宗則はその後も冷たい視線を感じ続けていた。

 陰陽寮の重役たちは表面上は礼儀を尽くしているように見えても、内心では宗則を脅威と捉えていたのだ。


 会議の後、宗則は藤原家に戻ると、春蘭と蓮のもとを訪れることとなった。

 春蘭は変わらぬ優雅さで宗則を迎え、蓮は少し冷淡に彼を見つめた。


「どうだった?」


春蘭が尋ねると、宗則は少し黙ってから答える。


「思った通り、警戒されているようです。多々良 昌隆が私を試すようなことを言ってきました。」


 蓮はその言葉に冷笑を浮かべた。


「あの男はあまりに保守的だ。しかし、彼が試すというのは、君がそれだけの実力を持っていると認めている証拠でもある。」


 宗則はそれを聞いて少し安心したが、すぐに蓮の視線に鋭さを感じた。蓮は何かを隠しているような、冷徹な瞳をしている。


「宗則、お前が信長の命を受けて陰陽師になったことには、私も複雑な思いがある。」


 蓮の声は予想に反して穏やかだった。


「だが、もしお前がこの道を進むのなら、ただ信長に従うだけではなく、藤原家としてもお前の力をどう使うかを考えていかなくてはならない。」


 宗則はその言葉に心の中で何かが弾けるような感覚を覚えた。

 蓮の言葉は、単なる忠告ではなく、何か裏に深い意味が込められていることを感じ取った。


 その後、改革派の中心人物、賀茂 美玖が現れた。

 若い陰陽師で、柔軟な思考と進取の精神を持ち、宗則に敬意を示しつつも、次の挑戦を提案する。


「信長様の陰陽師として、京の街で新たな風を吹かせるために共に力を合わせませんか?」


 賀茂 美玖は前向きで力強い声で語りかけた。


 宗則はそれを聞いて、深刻な表情で考え込んだ後、頷いた。


「今の時代、陰陽道も変わらなければならない。私もその意志を持って取り組むつもりです。」


 賀茂はそこで微笑み、その目は希望に満ちていた。


「そう言っていただけるならば、私たちは共に道を歩んでいくことができる。」


 その日の夜、宗則は自室でじっくりと考えを巡らせた。

 信長から与えられた陰陽師の役職が、これからの自分をどのように導いていくのか。

 その先に待ち受けるのは、戦のような激しい闘争か、それとも巧妙な策を巡らす心理戦なのか。

 いずれにせよ、宗則はその覚悟を固めていた。


 そして、宗則は決心した。

 これからの道を切り開くためには、藤原家と賀茂家の協力が必要だ。

 そして、その先に待ち受ける数々の試練を乗り越えるためには、自らの力を信じ、最善を尽くすしかないと。


続く

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