第37話 陰陽道の指南

 信長の上洛がもたらした影響は計り知れなかった。

 京の都を支配し、信長がその権威を固める一方で、宗則も陰陽師として新たな立場を得た。

 陰陽師としての役職が与えられたとはいえ、宗則はその重責を痛感し、周囲からの厳しい視線を感じていた。


 旧勢力の面々が目を光らせ、特に朝廷内での力を持つ陰陽頭たちからは警戒の念が隠しきれない。

 宗則はその状況を嫌でも自覚していた。自分が新参者であり、信長に取り計らわれて得た役職に過ぎないことを、周囲は決して歓迎しないだろう。


 その日、宗則は春蘭と蓮との再会を果たすため、藤原家に赴くこととなった。

 春蘭は宗則にとって、陰陽道の重要な師であり、藤原家の重鎮としての影響力を持つ人物であった。

 蓮はその甥であり、計算高い野家で、宗則にとって警戒すべき存在でもあった。


 藤原家に足を踏み入れた瞬間から、宗則は空気が異様に重く、張り詰めているのを感じた。

 春蘭と蓮がどのような態度で迎えてくれるのか、それを思うと心が少し躍る。


「宗則、よく来たわね」


 春蘭の声が響くと、宗則は礼を取って頭を下げた。

 春蘭はその端正な美しさと威厳を漂わせ、年齢を感じさせなかった。


「お久しぶりです、春蘭様」


 宗則が慎重に言葉を選んで返すと、春蘭は穏やかな笑みを浮かべた。


「陰陽師としての任務は、どうだろうか?」


春蘭が尋ねると、宗則は真剣な表情で答える。


「ありがたいことに任命されました。しかし、すぐに厳しい現実が待っていることも理解しています。旧勢力からの反発や警戒は避けられません。」


 春蘭は少し黙り込むと、目を細めて言った。


「それは私も感じていることだ。しかし、君のような優れた者が陰陽師として職務を果たせば、必ずや朝廷の信頼を得ることができるだろう。」


 その言葉に宗則は深く頷いた。春蘭の言葉は単なる励ましではなく、経験から来る確信に満ちていた。


 その後、蓮が姿を現すと、宗則はその冷徹な眼差しをすぐに感じ取った。

 蓮は美しい容姿に似合わず、計算高く、他人を操ることに長けた人物であり、宗則を警戒しているのは明らかだった。


「宗則か」


蓮が冷たく言った。

 彼の声には、どこか鋭い警戒心が滲んでいた。


「陰陽師として、信長様から任命されただけで、これからどうなるか分かっているだろう?」


 宗則は静かにその問いに答えた。


「もちろんです。私は陰陽師としての力を、信長様のために尽力し、朝廷との繋がりを深めるために全力を尽くします。」


 蓮は一瞬、目を細めたが、すぐに解し、


「信長様のためか。だが、忘れるな。君は藤原家の一員として、私たちとも繋がっている。その力を、私たちのためにも使うことを忘れないで欲しい。」


と言い放った。


 宗則はその言葉に微笑んで答える。


「もちろんです、蓮様。私はどこにいても、信念を持って務めます。」


 その後、春蘭、蓮、そして宗則はしばらくの間、陰陽道に関する話題を交わした。

 春蘭は儀式や祈祷についての知識を宗則に授け、蓮は陰陽道の力がもたらす運命の変転について興味深い意見を述べた。

 宗則はそのすべてを胸に刻み、自分の力をどのように活かしていくべきかを少しずつ考え始めていた。


 しかし、宗則の心の中には依然として警戒の念が消えなかった。

 信長から与えられた陰陽師としての任務は大きな名誉であり、彼の成長の証でもあった。

 しかしその力を持つことは、信長や藤原家、さらには朝廷内での権力争いに巻き込まれる危険も孕んでいる。


 その夜、宗則は藤原家を後にし、自らの歩むべき道を静かに思索していた。

 春蘭や蓮との再会を果たしたことで、彼は改めて陰陽師としての覚悟を決めた。

 新たな立場で迎えるこれからの時代において、自分の力をどのように使い、どのように生き抜くか。

 それが彼の最大の試練となることを、宗則は理解していた。


続く

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