第32話 豪雨に響く勝軍の声

 柴田軍の軍議の中で、宗則は勝家に一計を案じた。

 信長自らが指揮するこの戦で手柄を立てるため、宗則は天候を利用することを提案した。


「豪雨を降らせ、敵の動きを鈍らせるのです。雨が降れば、六角軍は視界が悪くなり、足元も滑りやすくなる。その隙を突けば、奇襲が成功するでしょう。」


 宗則の提案に、勝家は腕組みをしてしばし考えた。


「天候を操るなど、夢物語ではないのか?」


 勝家が疑念を口にすると、宗則は冷静に答えた。


「天候を完全に操ることはできません。しかし、私は陰陽師として自然の流れを読み、適切なタイミングを見極めることができます。この策を試みる価値はあるはずです。」


 勝家は少し考えた後、


「よかろう」


と頷いた。


「豪雨の中、我が軍が突撃する。その先陣を切るのは隼人、お前に任せる。」


「承知しました!」


隼人は気迫に満ちた声で応えた。


 さらに、宗則は義重を六角から裏切らせる策を提案した。これを実現するため、綾瀬に密命を託す。


「綾瀬、義重に伝えてくれ。もし豪雨が降り、我々が奇襲を仕掛けるなら、観音寺城の門を開けるように。隼人が先陣を切り、門を突破する手筈だ。」


 宗則の言葉に、綾瀬は静かに頷き、その場を後にした。


 時が経ち、宗則の予測通り、天候が急変した。

 黒い雲が空を覆い、雷が鳴り響く中、激しい豪雨が降り始める。

 宗則は天候の流れを的確に読み、勝家に進軍のタイミングを知らせる伝令を送った。


「今です、勝家様。六角軍の視界も動きも遮られている今こそ、突撃の時です!」


 勝家はその言葉を信じ、「全軍、進め!」と大音声で号令をかけた。

 豪雨の中、勝家軍は一斉に突撃を開始。

 六角軍は雨に阻まれ、混乱の中で動きが鈍くなっていた。


 その瞬間、義重が宗則の指示通り門を開け放つ。

 先陣を切った隼人は、その隙間から城内へ突入した。

 豪雨をものともせず、隼人は鋭い槍捌きで次々と敵兵を討ち取り、門を完全に制圧。

 勝家軍はその勢いに乗じて次々と城内へ押し寄せていった。


 勝家軍の猛攻により、六角軍の士気は崩壊。

 隼人を中心とする突撃部隊が城内の要所を制圧する中、信長率いる本隊も観音寺城に到達。

 総力戦が展開される中、六角軍は次第に押され、ついに完全な敗北を喫した。


 こうして観音寺城の戦いは、柴田勝家軍の圧倒的な攻勢と隼人の奮闘、宗則の知略によって決着を迎えた。

 雨が止む頃には、六角軍は完全に敗走し、観音寺城は織田軍の手中に落ちた。


 隼人の勇敢な戦いぶりは、勝家軍の兵たちの間で語り草となった。

 戦場の先頭で敵を薙ぎ倒す彼の姿は、まさに一陣の風のようだった。

 その武勇は、勝家が直々に称賛するほどであり、隼人はさらなる信頼を勝ち得ることとなった。


 一方で、宗則の読みと計画がこの戦の勝因となったことは、信長を始めとする織田勢の間でも認識されつつあった。

 陰陽師としての能力を表立って語る者はいなかったが、天候を味方につけたその才覚は、誰もが認めざるを得なかった。


 戦後、信長は戦果を喜びながら、宗則に向けて言葉をかけた。


「宗則、今回の戦、お前の知恵と判断が勝利を呼び込んだ。これからもその才を、織田のために存分に振るってくれ。」


 宗則は静かに頷き、言葉少なに応えた。


「信長様のためなら、いついかなる時も、この力をお役立ていたします。」


 観音寺城の戦いの勝利は、織田軍の威信をさらに高めた。

 そして、信長の上洛は現実のものとなりつつあった。

 この戦いが織田軍の次なる進撃の礎となることを、誰もが確信していた。


続く

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