第29話 六角滅亡の序曲

 永禄11年(1568年)春、信長の上洛に向けた準備が進む中、宗則は勝家の指示を受けて、近江の豪族に対する調略を進めていた。


「宗則、あの六角家を討つためには、まず近江の力を結集させねばならぬ。そのためにも、地方の豪族を取り込む必要がある。」


 勝家の言葉に、宗則はうなずきながら答えた。


「お任せください。私が手配いたします。」


 宗則は、近江の豪族に対して、特に六角家に対抗する力を持つ者たちをターゲットに、巧妙な調略を開始した。

 だが、今回の調略は一筋縄ではいかなかった。

 六角家の勢力を削るためには、各豪族の動向を慎重に見極め、時に脅し、時に利を示さなければならなかった。


 宗則は綾瀬を呼び寄せ、共に作戦を練った。


「綾瀬、君の手腕を借りたい」


綾瀬は、静かにうなずきながら答えた。


「かしこまりました。調略には私の得意分野です。」


 宗則は、近江の豪族である佐々木一族と接触を試みることに決めた。

 佐々木一族は、六角家に忠義を誓う一方で、その繁栄に陰りを感じていた。

 宗則はその心をくすぐるため、綾瀬に潜入させ、豪族の一人、佐々木義重に接近させた。


 綾瀬は身軽に、かつ優雅に着替え、佐々木義重の屋敷へと向かう。

 屋敷に到着すると、早速、義重との会話が始まった。


「義重殿、私は貴殿にとって、良い助けになれるかもしれません。」


綾瀬は、香り高い茶を差し出しながら、巧妙に話を切り出した。


「六角家がどうなるかは、貴殿にも分かっているはずです。もし六角家に従い続けるなら、将来はどうなるでしょうか。」


 義重は一瞬、警戒の色を見せたが、綾瀬の鋭い言葉に徐々に心が動かされていった。


「六角家がどうなるのか、確かに不安はあります。」


「ならば、信長様の下に身を寄せる選択肢もあるのではありませんか?」


 綾瀬は、義重の心を確実に掴み始めた。


 その後、宗則は義重と書簡を交わし、密かに信長のために動くよう説得する内容を送った。

 書簡の内容には、六角家の弱点を示唆し、信長への忠誠が新たな未来をもたらすことを約束した。


「信長様の軍勢に加われば、必ずや近江は再編成され、貴殿の地位も安泰となる。」


 宗則は、義重がその気にさせられるように巧妙な言葉を並べた。


 数日後、義重は宗則の求めに応じ、六角家との決別を決意した。

 彼の裏切りによって、六角家の支配力は大きく削がれ、近江全体の情勢は変わり始めた。


 一方、勝家は宗則の報告を受け、満足げな表情を浮かべた。


「良くやった、宗則。これで六角家を倒す足がかりができた。」


「ありがとうございます、勝家様。」


 宗則は、冷静に答えながらも心の中で、次の調略に向けての準備を始めていた。


 その後、勝家の軍勢は近江を進撃し、六角家の拠点を一つ一つ奪い取っていった。

 宗則の策と綾瀬の協力が、勝家の軍を有利に導いたのだ。


「これで、信長様の上洛は一歩近づいた。」


 宗則は勝家と共に、次なる戦の準備を進めていった。


続く

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