第25話 二条家の落日
二条 尹房は、愛猫を盗まれた一件以来、心穏やかならぬ日々を送っておった。
犯人は見つかったとはいえ、事件の裏に何者かの陰謀が潜んでおるように思えてならぬのだ。
「…ううむ…誰が、このようなことを…」
尹房は、不安げな面持ちで呟いた。
彼は、老齢とはいえ、長年、朝廷で権力闘争を生き抜いてきた、百戦錬磨の政治家であった。
今回の事件が、単なる盗難事件ではないことを見抜いておった。
(…誰ぞが、わしを陥れようとしておる…)
尹房は、そう確信しておった。
しかし、誰が、何の目的で、このようなことをするのか?
尹房は、疑心暗鬼に陥っておった。
(…春蘭か…? いや、彼女には、そのような大胆なことをするだけの力は…)
春蘭は、尹房にとって、長年の盟友であり、藤原家の中でも、比較的親しい間柄であった。
しかし、それはあくまで、表向きの関係に過ぎなかった。
尹房は、春蘭が、心の奥底では、藤原家の権勢拡大のためなら、手段を選ばない野心家であることを見抜いておった。
(…やはり…近衛家か…?)
近衛家は、藤原家と並ぶ五摂家の一つであり、代々、摂政や関白といった要職を争ってきた。
近年、近衛家は、尹房と対立することが多く、尹房は、彼らを警戒していた。
(…前久め…わしを陥れようとしておるのか…?)
尹房は、近衛前久への警戒心を、さらに強めた。
前久は、近衛家の当主であり、永禄5年(1562年)から関白の座にあった。
彼は、学問や文化に造詣が深く、温厚篤実な人物として知られていた。
しかし、尹房は、前久の温厚な表情の裏に、野心を隠していることを見抜いていた。
前久は、朝廷の権威を取り戻し、戦乱の世を終わらせるために、強い意志を持って行動していた。
そして、そのために、尹房は、邪魔な存在だったのだ。
(…このままでは、二条家は、わしは失脚させられてしまう…)
尹房は、焦燥感に駆られた。
彼は、家臣たちを集め、対策を協議した。
「…近衛前久が、関白の座に居座り続ければ、我ら二条家は、窮地に立たされるであろう」
尹房は、家臣たちに、危機感を訴えた。
「…何か、良い策は…?」
家臣たちは、頭を悩ませた。
しかし、有効な対策は見つからなかった。
近衛家は、藤原家と並ぶ名門であり、朝廷内での影響力は、二条家を凌駕していた。
しかも、前久は、すでに、多くの公家たちを、味方に引き入れていた。
二条家には、近衛家に対抗するだけの力は、残っていなかったのだ。
(…どうすれば…?)
尹房は、焦燥感に駆られた。
彼は、近衛家の動きを、注意深く監視することにした。
そして、機会があれば、反撃に出るつもりだった。
(続く)
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