第24話 疑心の連鎖
二条家の庭には、朝の薄明かりが差し込んでいる。
庭師たちはいつものように黙々と作業を続けていたが、その日、普段と違う静けさが家中を包んでいた。
二条尹房は、自室で膝を抱え、庭の様子を見つめていたが、そこに突然、家族からの急報が入る。
「ご主人様、猫がいなくなりました。」
尹房の心に一瞬、冷たいものが走った。
その知らせは、思った以上に深刻だと直感した。
家族の大事な愛猫が失踪したのは、単なる事故では済まされない。
尹房はその報せを聞いた時から、違和感を覚えた。
すぐに家の者たちに指示を出し、猫の捜索が始まる。
しかし、どれだけ探しても、猫の姿は見当たらない。
庭の隅々まで調べても、ただの痕跡すら残っていない。これはただの失踪ではない、何か裏があるに違いない。
尹房は静かに頭を抱え、周囲に目を向けた。家の中に潜む不穏な空気に、ますます疑念が募る。
その直後、家宰が急ぎ足で部屋に入ってきた。顔色が悪く、まるで何か重大な事態が起こったかのように見えた。
「殿、事態が…」
尹房は家宰の顔を見つめ、眉をひそめた。
「何があった?」
「実は…愛猫の行方不明の件ですが、調査の結果、どうやら二条家に仕える者が、近隣の公家に猫を売り払ったようです。」
尹房は一瞬、言葉を失った。
この事態が単なる失踪にとどまらず、陰謀の一環であることを強く感じた。
愛猫の失踪がまさか、政治的な計略に使われるとは思いもしなかった。
「売り払った、だと?」
家宰は頷きながら続けた。
「はい。間違いなく、誰かが猫を売り飛ばした。売り先はまだ不明ですが、他の公家のところに流れた可能性が高いとのことです。」
尹房は深く考え込む。
二条家に仕える者が裏で動いているとは、まさに想定外の展開だった。しかし、何もせずにいるわけにはいかない。
「家宰、この件に関して何か他に調べるべきことがあれば、すぐに報告を。」
「はい、殿。」
家宰は一礼して部屋を後にした。
尹房はしばらく静かに座り、心の中でこの問題がどこに繋がるのかを考え続けた。
近衛派の影がちらつき、その背後にいる者たちの狙いが見え隠れしていた。
猫の失踪という小さな事件が、二条家の未来にどんな影響を与えるのか、尹房はすぐには答えを出せなかった。
その後、家宰からの報告が入る。
どうやら、二条家に仕える者がわざと猫を売り払ったのではなく、他の公家が仕組んだことのようだった。
この情報が正しければ、二条家の内情に深入りした者たちが、近衛派に有利な状況を作り出すために動いているということになる。
尹房は再び部屋の隅に置かれた文書を手に取った。
目を通しているようで、実際にはその内容が頭に入ってこない。
ただ、頭の中で浮かんでくるのは、家族の大事な愛猫の姿と、その背後に潜む陰謀の影だけだった。
続く
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