第21話 師の想い

 信長との同盟と引き換えに、宗則は織田家に仕官することとなった。

 春蘭は、宗則に、信長の下で藤原家のために力を尽くすようにと告げ、彼を送り出した。


 宗則は、綾瀬と共に、尾張へと向かう道中、白雲斎の寺に立ち寄ることに決めた。

 これから信長に仕えるにあたり、師である白雲斎に報告し、助言を求めたかったのだ。


 道中、宗則はふと隣を歩く綾瀬に目を向けた。


「…綾瀬、信長様のもとでの道のり、どう思う?」


 綾瀬は少し考えた後、静かに答えた。


「宗則様の決断に間違いはありません。ただ…織田家は戦の世の象徴とも言えます。その渦中に身を置かれることは、大きな危険も伴うでしょう。」


「そうだな…」


 宗則は自分の内心と向き合うように呟いた。


「だが、避けては通れない道だ。陰陽道で培った知恵と目を、これからの世のために活かす。それが、俺の使命だと思う。」


 綾瀬は静かに頷き、続けた。


「宗則様が信長様のもとでどのような役割を果たすのか、その未来はまだ誰にも分かりません。ですが、私はいつでも宗則様を支える覚悟です。」


 その言葉に宗則は思わず微笑んだ。


「ありがとう、綾瀬。お前がいることが何より心強い。」


 こうして二人は、白雲斎の寺へとたどり着いた。


 白雲斎は山門の前に立ち、宗則の姿を見て微笑んだ。


「宗則、よく来たな。」


 宗則は山門の前で深々と頭を下げた。


「師匠、お久しぶりです。私はこの度、織田信長様に仕えることとなりました。」


 白雲斎はその報告に静かに頷いた。


「そうか…信長は稀代の英雄じゃ。しかし、彼は冷徹で危険な男でもある。お前がその下につくなら、常に気を引き締めておかなければならぬ。」


 宗則はその言葉を真摯に受け止めた。


「はい、師匠。」


「信長は天下統一を目指しておる。そのためには、多くの血が流されるだろう。」


 白雲斎は静かに続けた。


「お前はその中で、己の知恵を何のために使うのか、常に問い続けなければならぬ。」


「師匠の教え、決して忘れません。」


 宗則はしっかりと頷いた。


 白雲斎はさらに言った。


「そして、信長の下では、陰陽道を活かすこともできるだろう。お前が修行で得たものは、術だけではない。人の心を読む力や、見えぬものを感じ取る力だ。それを信長のためにどう活かすか、お前の腕の見せ所じゃ。」


 宗則は、その言葉に深く納得した。


「はい、師匠。陰陽道で学んだことを信長のために尽くします。」


「よし、ではお前がこれから進む道が決まったことを祝おう。」


 白雲斎は微笑みながら続けた。


「だが、忘れるな。お前はまだ多くのものを学び、見極めなければならぬ。特に、春蘭との関わりには注意が必要じゃ。」


「春蘭様は藤原家を守るために最善を尽くされております。」


 宗則はその言葉を受けて、何かを胸に秘めたような表情を浮かべた。


 白雲斎は、少し静かな声で言った。


「春蘭は難しい立場にいる。その選択が時には厳しいものであったとしても、藤原家のためであることを信じるのだ。だが、お前はその過程で何を思うか、自分を見失わぬように。」


 宗則はしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。


「…師匠の言う通りです。私は、春蘭様の決断を信じ、これからも藤原家を守るために力を尽くします。」


 白雲斎は、宗則の肩に手を置き、しっかりと見据えた。


「よく言った。お前がどんな道を選ぼうとも、心にしっかりと自分を持って進め。」


 その言葉を胸に、宗則は白雲斎に深く頭を下げ、寺を後にした。


綾瀬と共に、尾張へ向かう道を歩きながら、宗則は次第に心が新たな決意で満たされていくのを感じていた。


(続く)

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