第15話 藤原家の陰謀
春蘭の邸宅に、藤原家の次男・蓮が訪れることになった。
春蘭はその到着を待ちながら、心の中で複雑な思いを巡らせていた。
蓮は春蘭の甥であり、近衛派閥の公家の中でも若いながら頭角を現しつつある人物である。
そのため、彼との接触が今後どのような影響を及ぼすのか、予測がつかない部分もあった。
「春蘭叔母上、お久しゅうございます」
蓮が優雅な姿勢で現れると、その佇まいはまさに藤原家の名門にふさわしい。
表面上は礼儀正しく振る舞うものの、その瞳の奥に冷徹な計算を感じ取ることができる。
春蘭はその微妙な違和感を敏感に察知していた。
「蓮、よく来たわね」
春蘭は微笑みながら蓮を迎え入れた。
だが、内心では蓮の動向が気になる。
彼はまだ若く、計算高い性格の持ち主であることはすでに知っていた。
「早速だが、宗則殿にご挨拶をさせていただきたくてな」
蓮の言葉に春蘭は一瞬戸惑った。
宗則はまだ修行の最中であり、陰陽師としては若い。
しかし、蓮がそれを無視して興味を示すのは意図的なものだと春蘭は感じた。
「宗則は、ちょうどそこにいるわ」
春蘭が指を指すと、蓮はゆっくりと歩み寄り、宗則に視線を向けた。
宗則はその冷ややかな眼差しに気づき、少し警戒した。
「宗則殿、初めまして。藤原家の蓮でございます。」
「お初にお目にかかります」
宗則は丁寧に頭を下げ、蓮に礼を返した。
蓮の目には冷徹な光が宿り、その言葉には計算が見え隠れしていた。
「叔母上からお話を聞いております。お二人の間柄からも、宗則殿の才覚がうかがえます」
蓮は微笑んで言った。
その言葉に、宗則は少し困惑を覚えた。
蓮が自分の才能を公然と評価することに、何か裏があるのではないかと疑念を抱いたからだ。
「ありがとうございます。まだ修行中ですが、精一杯頑張っております」
宗則は礼儀正しく答えたが、その目線は蓮を警戒していた。蓮の言葉の裏にある意図を読み取ろうとしている自分がいた。
「そうか、しかしその才能は本物だ。これからが楽しみだ」
蓮はやはり冷徹な視線を崩さなかった。その目には、宗則を利用するための計算があったが、宗則にはその真意を探る術がない。
「蓮も自分の道をしっかりと歩んでいくことが大切だ。」
春蘭は微笑みながらも、その眼差しは鋭さを感じさせた。蓮が宗則に対して何かを企んでいることに気づいていたからだ。
「もちろんです、叔母上」蓮は礼を言いながら立ち上がる。「それでは、失礼いたします」
蓮は一度、宗則に向かって深く頭を下げた。しかし、そのまま部屋を出ようとはせず、ふと足を止めて静かに振り返った。
「実は、叔母上、宗則殿にもお聞きしたいことがあるのだが。」
春蘭はその言葉に少し驚きながらも、落ち着いて蓮を見つめた。
「どうしたの?」
「近衛家と二条家の間で、近頃何か不穏な動きがあると聞いた」
蓮は低い声で言った。
「二条家は、今後の朝廷の動向において力を持つことができるかもしれません。しかし、それが近衛派にとって脅威となるのは間違いない。」
春蘭は蓮の言葉に静かに耳を傾けた。
確かに、二条家と近衛派の間には確執があり、その対立が激化すれば、両家の命運を左右する可能性があることは予測されていた。
「だからこそ、二条派の失脚を早急に狙うべきだと考えている」
蓮はさらに続けた。
「宗則殿、あなたの知恵を貸して欲しい。陰陽師としての力を使い、また軍師としての見識を活かして、二条派の計略を打破する手立てを考えていただけないだろうか?」
宗則は驚きと共にその提案を受け止めた。
自分が政治的な争いに巻き込まれることを想像していなかったが、蓮がそれを求めているのは明確だった。
「私がそのような策を講じることができるのかどうか…」
宗則は少し戸惑いながらも答える。
「だが、近衛派のために何かできることがあれば、考えてみます。」
「そうか、頼もしい」
蓮は満足げに微笑んだ。
「二条家の動きは確実に危険だ。あなたの力があれば、近衛派は今後も安泰であろう」
春蘭はその会話を静かに見守っていた。
しかし、その言葉に心中は複雑であった。
二条家と近衛家の争いには、春蘭の父が関わっている。
春蘭の父はかつて二条家と誼を通じており、その繋がりは簡単に切ることができるものではない。
春蘭は心の中で葛藤していた。
父と二条家との関係を重んじるべきか、それとも近衛派に与するべきか。
その選択に迷っている自分がいた。
「私もできる限り支援するつもりよ。」
春蘭は穏やかな声で言ったが、その表情には微かに曇りが見えた。
「だが、慎重に動かなければなりません。二条派を動かすには、それなりの時間と計画が必要です。」
その言葉に、蓮は一瞬、春蘭の顔をじっと見つめた。
春蘭の目には、二条家に対する複雑な思いが込められていることを蓮は察していたが、敢えてそのことに触れなかった。
「もちろんです」
蓮は穏やかに答えた。
「ですが、二条家を放置すれば、後々大きな問題となる。私は早期に策を講じたいのです」
春蘭は無言で頷いた。
その心の中では、父と二条家との誼を断ち切る決断ができるのかどうか、自問していた。
「宗則殿、あなたがこの局面で動けることを心から期待している。」
その言葉に、宗則は少し迷いながらも覚悟を決めた。
これから待ち受けるであろう、二条派との対立と陰謀の中で、自分の役割を果たさなければならないという覚悟を。
続く
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