第14話 陰謀の兆し
春蘭の部屋で、宗則は久しぶりに顔を合わせた春蘭に向かって、ひとしきりの挨拶を終えた。
沈黙が部屋に漂う中、春蘭は静かに筆を取り、書類に目を通しながら口を開いた。
「宗則、あなたの修行は順調に進んでいるようですね。」
「はい。おかげさまで。」
宗則の返答に春蘭は微笑み、筆を置いて顔を上げた。
その眼差しは、常に冷静でありながら、どこか遠くを見つめるような深みを感じさせる。
「しかし、これから先はあなた一人で進まねばならないことも多くなるでしょう。」
春蘭の言葉に宗則は少し黙り込み、その後、少し迷った様子で口を開いた。
「春蘭様、先日言われた『依頼』のことですが、何か進展があったのでしょうか?」
春蘭は静かに頷き、室内の一隅に置かれた小さな箱を指し示した。
「その件に関しては、蓮から伝言が届いています。」
「蓮?」
と宗則が問うと、春蘭の表情がわずかに緩んだ。
「藤原蓮か?」
春蘭はその名を口にしながらも、少し躊躇った様子で続けた。
「はい。彼は私の甥で、藤原家の次男です。現在、近衛派閥の一員として力を持つ存在です。彼の目は、いつも先を見据えている。」
春蘭の言葉を受けて、宗則は心の中で少しの警戒心を覚えた。
蓮という男のことはよく知らないが、彼が春蘭の甥であり、近衛派閥の中で力を持つ人物だということは、宗則にとって重要な情報だった。
「蓮が、私に何かを?」
と宗則が尋ねると、春蘭は穏やかに答えた。
「彼はあなたに関心を持っているようです。陰陽道の力を求める彼の意向には、私もある程度理解しているが、同時に彼の野心には警戒心を抱いています。あなたがどう動くかによって、今後の行動が変わるでしょう。」
宗則は春蘭の言葉を胸に刻みながらも、頭の中で蓮の意図を測ろうとした。
蓮がどのような人物で、どんな目的を持っているのか、いまいち掴みきれない。
だが、春蘭が警戒していることから、蓮がただの青年に過ぎないわけではないことは確かだった。
そのとき、春蘭は再び口を開いた。
「宗則、蓮に関してあなたがしっかりと判断することが大切です。彼はあなたを、ある意味ではあなたにとって助けになる存在にもなり得ます。しかし、同時にあなたにとって危険な存在でもあります。」
「危険な存在?」
と宗則が問うと、春蘭は少し考えてから答えた。
「はい。蓮はあなたに力を貸すかもしれませんが、その見返りを求めてくるでしょう。そして、あなたが思うようには動かないかもしれません。」
春蘭の言葉を受けて、宗則は深く考え込んだ。彼にとっても、蓮の存在は無視できないものだった。
もし彼と手を組むことができれば、さらなる力を得ることができるだろう。
しかし、同時にその力を持つことが、裏で何かを裏切ることにも繋がりかねない。
「蓮に会うことになるのですね。」
宗則が言うと、春蘭は静かに頷いた。
「ええ、そうなるでしょう。彼はすでにあなたのことを気にかけているようです。ただし、注意して進みなさい。」
宗則は春蘭の言葉をしっかりと受け止め、深く頷いた。
「分かりました。ありがとうございます、春蘭様。」
春蘭は軽く微笑み、言った。
「さて、あなたの道はこれからますます険しくなります。蓮との接触が始まると、ますます立場が複雑になっていくでしょう。それでも、決して自分を見失わないように。」
その言葉に、宗則はしっかりと目を見開いた。春蘭の教えが、今後の試練にどう影響を与えるのか。
それを感じると同時に、蓮との接触が、彼にとってどれほど大きな意味を持つことになるのかを考えずにはいられなかった。
続く
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