第13話 禁忌の術

 宗則たちは、京への旅の途中、鞍馬山の近くに立ち寄っていた。宗則は以前に立ち寄った村で、興味深い話を聞いたことを思い出した。


 その村では、特に一人の老人が語ってくれた伝説が印象に残っていた。


「この近くの霊山、鞍馬山には、古来から天狗伝説があり、霊的な力が宿っているとされている。そして、その鞍馬山の奥深くには、古代の知恵や秘術が眠る祠があるという伝説があるんじゃ。」


 宗則はその話に胸を躍らせたが、当時は目的地に向かうことで精一杯だった。

 しかし、今その伝説を思い出し、仲間たちに話すことにした。


「以前、都に移動する際に立ち寄った村で、鞍馬山の伝説を聞いたことがあるんだ。天狗が守る祠には、失われた秘伝の書物が眠っているとされている。」


 仲間たちは興味深そうに耳を傾けた。


「それは興味深い話だな。もしその祠を見つけることができれば、さらなる知恵と力を得ることができるかもしれない。」


 宗則は仲間たちと協力し、霊山鞍馬山にある伝説の祠を探す計画を立てることにした。

 彼らは村人たちにも話を聞き、鞍馬山中を調査し始めた。


 数日かけて、宗則と仲間たちは鞍馬山の中を探索し続けたが、祠に関する手がかりは一向に得られなかった。

 疲れ果てた頃、ふとした瞬間に宗則の背中に刻まれた烏のあざがかすかに震えた。


「…何か、ここにあるのかもしれない…」


 宗則は直感を信じ、仲間たちに指示を出し、さらに奥へ進んでいった。

 すると、一つの大きな岩壁の前で立ち止まった。


 宗則は心を落ち着け、かすかな震えを感じた烏のあざをなぞりながら、岩壁に手を当てた。

 その瞬間、岩壁がゆっくりと動き出し、奥に広がる秘密の祠が現れた。


「これが、天狗伝説に語られる祠…?」


 宗則の目の前に広がる光景は、古の知恵と秘術が詰まった書物や巻物の数々だった。

 宗則たちはその光景に驚きと感動を覚え、次々と書物を手に取って調べ始めた。


 祠の奥には、一際異彩を放つ古びた巻物があった。宗則はその巻物を手に取り、巻物を留める軸に描かれた烏の絵に注視した。

 それは、白雲斎が集めろと言っていた烏が描かれている巻物だった。


「これは…ただの伝説なんかじゃない、本物だ。」


 その瞬間、周囲が暗転し、宗則は再び不思議な異次元へと引き込まれた。そこは闇に包まれ、星々が輝く天空が広がる異世界であった。


「何が起こっているんだ…?」


 宗則は冷静を保ちながら、自分の周囲を見渡した。

 しかし、直視していた星々が示す道筋に導かれるように進んでいく。


「試練か…」


 宗則は身構えた。禁忌の術を学ぶには、ただ書物を読むだけでは足りない。

 彼はこれから、自らの力を試されることを理解していた。


 宗則が白雲斎が集めろと言っていた烏が描かれた巻物を手に取った瞬間、周囲が暗転し、彼は再び不思議な異次元へと引き込まれた。

 そこは闇に包まれ、星々が輝く天空が広がる異世界であった。


「何が起こっているんだ…?」


 宗則は冷静を保ちながら、自分の周囲を見渡した。

 星々が示す道筋に導かれるように進むことを決心した。


 最初の試練は、天体の動きを読み解くことだった。

 星々が空に描く複雑なパターンを、宗則は必死に観察し、読み取ろうとした。

 天空に広がる星の配置が未来を示す鍵であり、それを正確に理解することが求められた。


 星々が一斉に光を放ち、微かな線を描き出す。その線が星座を形成し、物語を語り始める。

 宗則はその星座の意味を理解し、それが示す運命を読み解こうとした。


「この星座の形、確かに過去に学んだことがある。それが示す未来は…」


 宗則は記憶を辿り、過去の知識と照らし合わせながら、星々の導きを信じて進み始めた。


 次の試練は、風の動きを感じ取ることだった。周囲に静寂が訪れた瞬間、風が微かにささやき始めた。

 宗則は耳を澄まし、風の音に集中した。風が語る未来の変化を敏感に感じ取ることが求められた。


 風が軽やかに動き始め、草木を揺らす音が微かに響く。その音が示す方向や強さを感じ取り、宗則は未来の変化を読もうとした。


「風が南から北へと動いている。この風の変化が示す意味は…」


 宗則は風の音を聞き分け、その流れに身を任せながら、未来の変化を感じ取ろうとした。


 最後の試練は、天候の変化を予測し、制御することだった。

 晴れた空が突然暗転し、重たく厚い雲が空を覆った。雷鳴が轟き、激しい雨が降り始めた。

 宗則は冷静に周囲を見渡し、天候の変化に適応する力を養わなければならなかった。


 雷が地面を揺るがし、稲妻が空を裂く光景が続く。宗則は恐れずにその光景を見据え、天の変化を感じ取った。


「この雷雨の中でも、希望の光は存在する。この嵐を乗り越える力を手に入れなければ…」


 宗則は心を落ち着かせ、天候の変化に順応するための知恵と勇気を振り絞り、試練に立ち向かった。


 宗則がこれらの試練を乗り越えた瞬間、周囲が静まり、星々が再び輝き始めた。

 彼の胸の中に天文の知識が啓示のように広がり、深い理解と共に新たな力が宿ったのを感じた。


 星明りが照らす道を奥に進むと、薄暗い空間に一つの祭壇が現れた。その上には、古びた石碑が立っており、そこには


「最後の試練を受けし者、我が力を得るべし」


と刻まれていた。


 宗則は祭壇の前に立ち、深く息を吸い込んだ。だがその瞬間、胸の内に一抹の不安が湧き上がる。


「本当にこれを受けて良いのか?」


 力を得ることの代償に、宗則はまだ確信が持てなかった。

 だが、今さら引き返すことはできない。彼は深呼吸し、石碑に触ろうと近づく。


 その瞬間、周囲の空間が歪み、視界が一変した。宗則は気づけば、目の前に二つの道が広がっていることに気づいた。

 一方は光り輝く道、もう一方は暗闇に包まれた道。


「選べ。」


 不意に、低く響く声が空間に広がった。

 その声は、まるで彼の内面に直接語りかけているようだった。

 宗則は一歩踏み出し、光の道を選ぼうとしたが、すぐに足が止まった。彼の心の中には疑念が渦巻いていた。


「光の道は容易だ。だが、その先に得られる力は、どれほどの重さを背負うのだろうか?」


 その疑念に対して、声が再び響いた。


「陰を知らずして、陽を使うことはできぬ。」


 それは春蘭の教えとも重なる言葉だった。

 宗則は深く息を吐き、目の前の光の道をじっと見つめた。

 だが、その道を進むことで失うものがあるかもしれない。今はまだ、力を得るために何を選ぶべきかを決めることができない。


「自分が求める力が、最終的にどんな形となるのか…」


 その思いが、宗則の足を止めた。


 やがて、彼は静かに暗闇の道を選ぼうとする。道は暗く、前が見えず、ただ無音の中を進むしかなかった。

 しかし、進むにつれて、周囲から不安を煽るような声が響き始めた。


「お前は本当に覚悟があるのか?」


「力を使うことの代償を理解しているのか?」


「その力が、最終的にお前を支配することになることを、恐れてはいないのか?」


 その問いかけに、宗則は立ち止まり、深く自問した。力を持つことが正しいのか、否か。

 どんな選択をしても、最終的にその力が自分を支配してしまうのではないか。

 何度も何度も、心の中でその問いが響く。答えが見つからないまま、暗闇の中を進む。


 やがて、突然視界が開け、目の前に一冊の古びた巻物が現れた。

 その瞬間、頭の奥に何かが響くように、術の本質が浮かび上がる。


「霊界と現世の均衡を揺るがす秘術」──


その言葉が脳裏に刻まれた。


「これが…陰の術か。」


 彼はその時、力を手に入れる覚悟を決めた。

 しかし、その決断がどれほどの代償を伴うのか、宗則には知る術がなかった。彼は目を閉じ、再び試練の問いに向き合う。


「私は、どんな未来を選ぶのか?」


 力を得ることで、すべてが変わる。だがその先に待つものは、今の宗則には計り知れない。


 それでも、進む覚悟を決めた。

 その時、宗則の背中に刻まれた烏のあざが強い光を放ち始めた。その光は周囲を照らし、宗則の意識が現実に引き戻されるのを感じた。


「…この力を、正しく使わなければ…」


 現実の光景が目の前に広がり、宗則は再び現実世界に戻ってきた。

 烏のあざが光りが、彼が新たな知識と力を手に入れたことを象徴していた。


続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る