第12話 闇の契約
春蘭は、宗則に向かって静かに告げた。
「あなたには、陰陽道の『表』を学んだ今、次に『裏』を学ぶ時が来ています。」
その言葉は冷静であり、また重く響いた。
宗則はその言葉を反芻するように、何度も心の中で繰り返した。
『裏』――それは、陰陽道の「禁忌の術」だった。
力を手に入れることができるが、その代償もまた大きい。それが彼の心を揺さぶる。
春蘭の眼差しは鋭く、彼の迷いを見透かすように言った。
「『裏』を学ばなければ、陰陽道を極めることはできません。しかし、それを使うためには心構えが必要です。」
宗則は深く息を吸い込み、目を閉じて考えた。心構え。それは、白雲斎が語った通り、裏の力を使うためには覚悟を持つことが重要だということだ。
だが、力を使うことによって得られるものがあれば、失うものもある。そのバランスを取ることができるのか、彼は自問自答した。
春蘭はその沈黙を破り、続けた。
「『裏』を学び、使いこなすことは、あなたにとって新たな力を得ることです。それは、あなたが進むべき道にとって重要な一歩となるでしょう。しかし、その力には代償が伴います。」
宗則は思わず目を細めた。
「代償…それは、力を使うことで命を危険にさらすことがあるということですか?」
春蘭は静かに頷き、続けた。
「その通りです。裏の力を使うことは、単なる術ではありません。それは、あなたが心の中で選んだ時、闇との契約を結ぶことになるのです。」
その言葉に、宗則は震えるような感覚を覚えた。闇との契約。どんな契約が待っているのか、それを受け入れることでどんな未来が待つのか、答えはまだ見えない。
しかし、彼には進む道があることを感じていた。
「そのためには、あなたが求めるべきものがあります。」
春蘭は少し間を置き、宗則を見つめた。
「『裏』の技術に関する書物が、山中の秘密の祠に隠されていると言われています。そこには、禁忌の術の基礎となる教えが詰まっています。」
宗則はその言葉に驚き、思わず口を開いた。
「山中の秘密の祠…それは一体?」
春蘭は目を細め、言葉を選ぶように答えた。
「その祠は、長い間誰も見つけることができなかったと言われています。そこには、禁忌の術を学ぶための貴重な書物が眠っている。しかし、その場所に辿り着くのは容易ではありません。秘密が多く、道は険しいでしょう。」
宗則はその言葉に覚悟を決め、答えた。
「わかりました。必ずその書物を手に入れてみせます。」
春蘭は微笑んだ。その笑顔には、どこか安心したような表情が浮かんでいた。
「それでこそ、あなたは本物の陰陽師となるのです。」
宗則は深く息を吸い込み、心を決めた。『裏』を学ぶために必要な書物を探しに行く。
その書物が何を意味するのか、どんな力を秘めているのかはまだ分からない。
しかし、彼はその先に待つ試練に立ち向かう覚悟を固めた。
「行ってきます。」
宗則は春蘭に言い、茶室を後にした。
春蘭はその背を見送りながら、ひとしきりの思案を巡らせていた。
宗則が「裏」の力を手にするためには、どれほどの代償を払うことになるのか。彼女はその先にある道を見守るしかなかった。
(続く)
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