第10話 陰陽道の兆し

 朝焼けが京の都を薄紅に染める頃、宗則は春蘭に呼び出され、屋敷の離れに案内された。

 そこは静寂の中に神聖さを感じさせる場所だった。

 床の間には古びた巻物が並び、奥には禍々しさと神秘が入り混じるような小さな祭壇が据えられている。


「ここは、私が信頼する陰陽師たちと議論を重ねてきた場所です」


 春蘭が静かに語る声に、宗則は思わず身を正す。


「宗則様、陰陽道にご興味は?」


 突然の質問に、宗則は戸惑った。


「…あまり詳しくは存じませんが、戦場において兵法と同じく重要な技術であることは承知しております。」


 春蘭は頷き、古びた巻物を手に取りながら続けた。


「白雲斎様が、あなたには陰陽道の資質があると見抜かれていました。あの方の目は確かです。そして、この力を学べば、知略を補完し、さらなる成果を出す助けとなるでしょう。」


 宗則は眉を寄せた。


「…ですが、私が陰陽道を学ぶ必要がある理由が、まだ見えません。」


 春蘭は静かに微笑むと、手元の巻物を示した。


「それは、今度の計略に関係しています。実は、二条尹房殿に関する問題が一つございます。」


「問題…ですか?」


 宗則の声には緊張が混じる。


「ええ。詳細は後ほどお伝えしますが、成功にはあなたの力が不可欠です。そして陰陽道の力も大いに役立つでしょう。そこでまず、修行をお願いしたいのです。」


「修行を…?」


「ええ、陰陽道の力を使いこなすために。実際に身につけたその力で、計略を成功に導いていただきたいのです。」


 その言葉に、宗則は内心戸惑いながらも、わずかに湧き上がる期待感を覚えていた。


「陰陽道を習得し、戦略の一部として活かす…興味深いですね。お引き受けします。」


 春蘭は嬉しそうに頷き、宗則に巻物を渡した。


「この巻物には基礎的な術が記されています。まずはこれを読み解き、基礎を身につけましょう。それと同時に、私の知る限りで指導もいたします。」


 宗則は巻物を手に取り、真剣な眼差しでページをめくる。見慣れない文字や図が並ぶが、不思議とその内容がすんなりと頭に入ってきた。


「…どうやら、白雲斎様の見立ては正しかったようですね。」


春蘭が満足げに言う。


(続く)

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