12.冒険者ジュリア、無事加護を獲る


「あの、俺はどのぐらい生きられますか?」

『長生き』

「長生き……寿命は2倍とか3倍とかでしょうか?」

『そんな感じ』


 突然感じた大きな魔力に反応した俺は、顔だけを2人に向けてそんな話を聞いていた。


 思わず小声で分析アナライズしたジュリアの能力値が大きく上昇している。


「リズ、本当にデメリットはないんだな?」

 俺は不安を感じながらも体を起こし、リズに今一度確認する。


『ない』

「ジュリア、何か調子が悪くなったりしたら言うんだぞ?そんな加護なんですぐに投げ捨ててしまえ!」

『クロ失礼。加護万能』

「そうだぞ!偉大なる聖霊様であらせられるリズ様になんてことを言うんだ!」

 俺はまた不貞寝したくなった。


「ジュリア、お前はリズを崇める宗教でも始めるのか?」

「それもいいな!」

『それは勘弁』

「そんな!リズ様!」

 縋り付こうとするジュリアに嫌な顔をしたリズは、フッと目の前から消えた。


 ジュリアはキョロキョロと辺りを探す。


「リズは普段は見えなくなってるからな。今回は結構長く姿見せてたし、疲れたんだろ?」

「そう、か。いや、俺もどうかしてたな。あまりに嬉しくて……なあ、聞いてくれ!俺も魔力がいっぱい増えたんだ!それに、寿命も倍以上あるってよ!」

「そうか、良かったな。俺も嬉しいよ」

 そう言ってジュリアを抱きしめる。


 俺の胸にしがみつく様にしてまた泣き始めてしまった。

 その背中を撫でながら、頭の中では"レイリアは俺を愛してなかったのか"とか"そう言えば装備作りかけだったな"など余計なことを考えてしまった。


 結局、夕食近くまでベッドによしかかるようにして2人で抱き合い穏やかな時間を過ごした。

 お腹が鳴り恥ずかしそうに離れるジュリア。


 俺も凝り固まっていた体をほぐすようにして起き、食堂で夕食を頂いた。


 そしてその夜、作成クリエイトを再開した俺は、1時間程でうっすら赤くも見える黒いドレスアーマーを作成した。

 本当はガチガチの耐性付与をかけたかったが、手持ちの素材が足りず耐物耐魔という、俺の普段着と同じ付与しかできなかった。


業火之舞鎧ごうかのぶがいってとこかな?」

 ジュリアにそう言って手渡すと喜んでくれたようで笑顔が眩しかった。


 名前の方も気に入ってくれたようで、どうやらジュリアも俺と似た感性なのだと感じ嬉しさが込み上げた。


「それ、耐物と耐魔しか付与してないが、暫くはそれで我慢してくれ」

「おう!ありが、と……え?」

「ん?」

 突然動きを止めたジュリアと視線を合わせる。


「耐物と耐魔って?嘘だろ?なんで?え?」

「落ち着け。長く暇を持て余した俺だからな。武具作成も付与もそれなりもできるんだ」

 そしてジュリアの視線は俺の顔と業火之舞鎧ごうかのぶがいを行ったり来たりさせている。


「凄い物を貰ってしまったが、この程度で驚いてはいけないということなんだな?」

「そう、かもな?本当は状態異常耐性や耐寒耐熱、運気上昇も付けたかったんだが……」

「正気か?」

「ああ。ジュリアに何かあっては困るからな」

「ふぐっ!」

 俺の返答に胸をぐっと押さえて天を仰ぐジュリア。


「クロの愛を感じる」

 ぼそりとそう呟かれ、俺も顔に熱が集まる。


 鎧を丁寧にサイドチェストの上に置いたジュリア。

 俺はその興奮気味のジュリアにバスルームへ連れ込まれ、激しい一夜を過ごすことになった。


 そして朝方、明日こそは迷宮を……そう思いながら眠りにつくのだった。




 翌日の昼過ぎ。

 さすがにお腹が自己主張を繰り返しているのでベッドから抜け出す。


 すぐにジュリアも目を覚まし、裸体を惜しげもなく晒しシャワー室へ走って行った。

 俺もすぐに追いかけたが、やはりドアは開いてはくれなかった。


 あれ?おかしいな?昨日は逆に連れ込まれたはずなのに。


 支度を終わらせ昼食を部屋で食べると、流石に今日は遅くなってしまったので迷宮へ行くのは諦めた。

 ならばとジュリアの剣を作り始める。


「今ある材料だと……」

 無限収納インベントリの中に眠る素材を吟味しながら、ジュリアが使っている鉄鋼の剣と同じ様な形状を想定して作成クリエイトしてゆく。

 凡そ3時間程かかったが、夕食前には作り上げることができた。


 作業中、一言も発せずに笑顔を浮かべて俺を眺めるジュリアに、何がそんなに面白いのだろうか?と疑問に思うが、出来上がった剣を目を輝やかせて見ているので、きっと楽しかったのだろうと思う事にした。


 鎧と同じように赤みを帯びた1本の長剣。

 混じった赤は、鎧にも使っている火炎魔鉱がわずかに残っていたので混ぜたのだ。

 分析アナライズした結果は良好で、軽い魔力で火柱程度を放てるようだ。


「これ、灼熱之牙、なんて言うのはどうだろうか?」

「灼熱之牙……いいな!」

 出来上がった剣を目の前にして、俺とジュリアは興奮を隠すことはなかった。


「試し切り、したいな」

「もう夜だが?」

 ジュリアは俺よりは冷静だったようだ。


 それから1時間、中身に見合う様に丁寧に作った黒い鞘に剣を収めると、大急ぎで夕食を食べ終え、逸る気持ちを抑えながらベッドに潜り込んだ。

 それでも興奮からか中々寝付けなかったのだが、隣でも同じように目をつぶっただけのジュリアを見ながら、"ここで手を出せば明日も迷宮はお預けになりそうだな"と思って目を閉じた。




 そして翌日。

 スッキリとした朝の目覚めに感謝した俺は、颯爽と着替えを終わらせ無限収納インベントリから出した朝食を胃に流し込んだ。


「似合う、かな?」

「うん。とても似合ってる」

 新たな装備に着替え終わってはにかむジュリアは、とても綺麗に見えた。


 そして2人は、鼻歌まじりに上機嫌な様子で迷宮に消えていった。

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