13.冒険者クロ、ジュリアの元メンと遭遇


 迷宮探索は順調だった。


 無理はせず30階層で狩りを進めていたが、正直ソロでもジュリアは狩れそうだった。

 装備もそうだが何よりリズの加護によりステータスが大幅に上がっている為、体が信じられないぐらい軽いと言って大物をバンバン切り倒していった。


 ジュリアはオーガやトロールを始め、死毒持ちの大蛇イビルスネーク土角の大鹿グランドエルクといったレアな魔物でも軽々と切り倒しているので、さらに下の階層でも良いだろうと思った。


 依頼の素材については提出していたが、特に金には困らないので買いたたかれる素材については無限収納インベントリに突っ込んであった。


 そんなある日、冒険者ギルドで素材を納めに倉庫に行き戻ってくると、カウンター前でジュリアの元パーティメンバーと話をしている光景が目に入ってきた。

 何やら言い争いをしている様に見えたので、そろりと近づきジュリアに声をかける。


「ジュリア、どうした?」

「ああ、ああクロ。何でもない」

 ジュリアは苦笑いしながら頬を掻く。


「おい!クロと言ったな!お前はジュリアにヒモの様に養われてはずかしくないのか!」

「そうだ!俺達だってジュリアと稼ぎに行かせてやりてーんだ!」


 2人がイラついた顔をしながら俺に詰め寄ってきている。

 確か、大きい方がロレンツォ、ちっさい方がエンリコと言ってた気がする。


 どうしたもんかと思案する。

 手を出してくるなら構わないだろうが、この程度であれば叩きのめすのは遠慮したい。


 何よりジュリアの元メンバーに、手荒な真似はしたくないのだが……


「おい!聞いてるのか!」

 ロレンツォが俺の眼前に立つ。


「おい!クロは俺よりも強いって言ってるだろ!いい加減にしろ!」

 ジュリアが俺の前に入り込みロレンツォを突き飛ばすように手で制す。


「ぐっ!ジュリアはかなり腕をあげたようだな!だが、いつまでもお荷物をしょって上へ行けるものか!」

「そうだ!いい加減、目を覚ませ!」

 ジュリアの元メンという事もあり、俺はどうしようか迷った末にジュリアに全投げし静観に徹することにした。


「よーしいいだろう!クロの強さも分からない間抜けは、さっさと叩きのめされた方が身の為だ!」

 鼻息荒く両手を腰に当て言い放つジュリア……何言ってんの?


「なあクロ!いいだろ?」

「ジュリア、あまり目立ちたくは無いんだが……」

 俺の返答に少しだけ目が泳ぐジュリア。


 確かにこの街に来た当初は降りかかった火の粉として拳を握り潰したこともあったが、今はジュリアもいるし穏便に終わらせたい。


「30階層後半のレア素材をバンバン納品する2人組と言うだけでもう充分目立ってますが?」

 声の主は受付のエルサであった。


「また余計なことを……」

 ついそう口ずさんでしまう。


 当の本人はまた正面を見て素知らぬ顔であった。


「30階層後半って2人でだろ?マジか……」

「おい!ジュリアに無理させ過ぎじゃねーか!男として恥ずかしくないのか!」

 エリンコは戸惑い、ロレンツォは怒り出す。


「それも全部クロのお陰だ!クロの凄さが分かっただろ!」

 フフンと上機嫌のジュリアだったが、ロレンツォはまだ納得していない様子で歯噛みしている。


「おいクロ!俺と勝負しろ!」

「お前とクロじゃ勝負にもならねーよ!どうせなら2人掛かりでかかって来いよ!俺のクロがすげーってのをしっかりと分からせてやる!なークロ!」

 そう言って笑顔を向けるジュリアに、俺は苦笑いしか返せなかった。


 もう多少目立ってもいいかな?と思いながらもため息をついた。


 周りでも様子を伺っていた冒険者達がやれやれ!と囃し立てている。

 そして、いつの間にか隣に立っていたギルマスのダミアーノ。


「では、ここは俺が仕切らせてもらう!」

 ダミアーノがそう宣言するのでギルド内は最高潮に盛り上がっていた。


 ダミアーノはその盛り上がりにニヤニヤとしていたので殴りたくなった。

 俺は、全員暇なのか?とウンザリしながら裏にある訓練場へと移動した。


 俺の後を少し体を丸めて付いてくるジュリア。


「クロ、ちょっと周りに流されちまったけど、怒ってない?」

「ん、あーまあ仕方ないんじゃないか?」

「そ、そうだよな!クロの凄さが分からないなら死んだ方がましだもんな!」

「いやそこまでは言ってないが?」

 そんな話をしていれば、自然と前を歩く2人がこめかみをヒクつかせてこちらに視線を送る。


「ジュリア、煽ってどうすんだ?」

「煽る?何を?」

 首を傾げるジュリアはとても可愛かった。


「おい!着いたぞ!」

「ボサっとしてるな!さっさと得物決めて始めるぞ!」

 怒る2人に急かされる。


 木剣やら木槍、木の盾などが並べてある場所から、2人は手慣れた様子でいくつか持って中央まで移動する。


 俺はそれらをスルーして、そのまま中央まで移動した。


「ギルマス、あれは壊してもいい奴か?」

「いや、できれば壊さんでくれ。ギルドの備品だからな」

 ニヤつくのを我慢している様子のダミアーノを見て、全部ぶっ壊してやろうかと思った。


 ロレンツォは盾と大剣、エリンコは棍のような長い棒を持っている。


「<分析アナライズ>」


 小声で分析アナライズしておくが、ロレンツォは力と耐久値がそれなりに高い。

 エリンコは魔力が高いので魔術師なのだろう。


「では、はじめ!」

「いや待てよ!アイツ手ぶらじゃねーか!」

 ダミアーノの合図で始まるが、エリンコが文句を言っている。


「いいから始めろ!」

 エリンコの言葉は無視されグヌヌと唸って俺を睨む。


 俺の所為じゃないと思うが?

 理不尽に睨まれ、後で絶対ギルマス泣かす!と思った瞬間であった。

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