11.冒険者ジュリアは精霊に契約を望む
『そうだ。リズは精霊。女、リズと契約して無限の力を獲ないか?』
リズはそう言って右手を前に突き出した。
「おい!」
俺は慌ててリズの右手を指でつまむ。
ジュリアはまだ戸惑い固まっている様子だ。
「契約持ち出す時だけは長台詞しゃべりやがって……」
『リズ、賢い精霊』
「気安く契約持ち掛けんな!俺の時だって説明も無しに契約結びやがって……」
『クロ大丈夫だった』
呑気なリズに久しぶりに感じる苛立ちを覚える。
リズと最初にあった時、精霊であると偉そうに自己紹介した後、さっきのようなセリフで何も知らない俺を誑かした。
確かに今も俺がこうして生きてるのはその結果だが、無限の魔力が無ければ死んでいた。
「あの、精霊様」
『なんだ女、契約するか?』
「まだ言うか!」
ジュリアがやっと口を開いたが、リズがまた勧誘を始めたのでその頭をグリグリと指で強く撫でまわす。
「契約したら、クロと一緒に生きられますか!」
『うむ!このリズが、女に永遠の命も与えよう!あうっ!』
いい加減にしろとリズの後頭部を指で弾く。
『クロひどい』
弾かれた勢いでクルリと縦に一回転したリズは、こちらを向き腰に両手をあて抗議する。
「ひどいじゃねーよ!何が永遠の命だ!ジュリアの魔力なら持って数分だろ?それに俺の魔力があるだろ!今更ジュリアの魔力吸って何がしたい!」
『2分ぐらい大魔導士になる』
「永遠の命はどこ行った?」
『リズの記憶の中に永遠に、いたっーーー!』
アホ精霊のでこに強めにデコピンをすると、クルクル回りながら部屋の隅まで飛んでいった。
面倒なので魔力の塊を投げつけると、何も無かったかのように『うまうま』と齧りついていた。
「ジュリア、リズは精霊だ。精霊と契約すると死ぬのは知ってるだろ?」
「ああ。だが、クロは生きてる。契約したのだろ?」
「そうだ。だが俺は、<無限の魔力>というぶっ壊れた称号があるから生きているだけだ。普通の人間が契約したらあっという間に干からびてしまうよ?」
「そうか……そうだよな。俺も子供の頃からそう聞いてた、んだけどな……なんとかならないのか?」
俺は、悲しそうなジュリアに何も返すことはできずその体を引き抱きしめた。
『女、魔力くれ』
俺の魔力を食べ終わったのか、いつの間にか俺達の横に浮いていた。
「まだ言うか!」
『契約違う』
「何が違うんだよ」
『魔力貰う。褒美やる』
そう言いながら両手を前に出しておねだりしている様子のリズ。
「リズ様、褒美は、危険なものではないのですね?」
「おいジュリア!」
乗り気になったジュリアの顔を両手で挟みこちらへ向ける。
『危険ない。味見して加護与えるか決める』
「加護って……おい!何をする気だ!」
『加護あれば少し長生き』
その言葉に心臓がバクリと跳ねた。
「長生きって……レイリアの時にはそんなこと……」
思わず昔の女の名を口走ってしまう。
『あの女、クロは便利な男と思ってた』
「えっ、リズ、何言ってんだよ……」
『本気じゃなかった。だから壊れた』
「待て待て!今更なんだよ!」
『この女、ジュリアは違う』
「待ってくれ!何の話をしてるんだ!ちゃんと説明してくれ」
俺はリズの頭をグリグリして説明を求めた。
「あの、いいだろうか?」
ジュリアが頬を赤らめ小さく手を上げていた。
その姿にグッときた。
「その、レイリア?って人は前にクロと付き合っていた人?」
「……そう、だ」
「リズ様、そのレイリアさんはクロの事を本気で好きじゃなかった?ってことですよね?」
俺は呼吸をするのを忘れ、ジュリアとリズを見ていた。
『あの女は本気じゃなかった』
「だから、リズ様は加護をお与えにならなかったと、そう言う事ですか?」
『そうだ』
リズは胸の前で腕を組みうんうん頷いている。
なんで俺は数十年経ってからそんな悲しい現実を突きつけられるとは思っておらず、ちょびっと目から汗が出てしまう。
「では、俺の、私の愛は本物だと、リズ様から見ても認めて頂けるのですね」
『そうだ、ジュリア、クロ大好き』
「は、はい!大好きです!」
胸に手を合わせリズを崇める様にして見ているジュリアに大混乱してしまう。
「わー!!!俺は!何を聞かされてんだって!」
『クロうるさい』
「クロ、落ち着け。今、俺の愛が本物だとリズ様も認めてくださった!そう言う大事な話をしている!少し黙っていてくれ!」
堪らず叫んだ俺は、リズばかりかジュリアにまで注意されてしまった。
「あ、後は勝手にしてくれ」
俺はそう言ってベッドにダイブしうつ伏せのまま思考を止めた。
◆◇◆◇◆
「では、魔力を」
そう言って俺は胸の前に魔力を強く籠める。
ほんの少しでもクロと長く一緒に居られる。
それを思えば多少のデメリットがあったとしても良いのだ。
元々あまり魔力を持ち合わせていない俺は、ぎこちないながらも拳大の魔力の塊を作ることに成功した。
これでもう、しばらく魔法は使えないだろう。
『おっ、うま』
リズ様は両手で私の少し歪な形の魔力を掴み、ガシガシと齧り始めた。
「美味しい、ですか?」
『うむ。美味』
「量はこれで精一杯ですが、望むなら毎日リズ様に捧げさせて頂きます!」
俺は嬉しさに鼻息荒く興奮していた。
『精一杯わかる。充分』
「ありがとうございます!」
そして満足頂けた様子のリズ様に思わず泣けてきてしまう。
『加護やる』
リズ様がそう言うと、一瞬その体が光を増したように見えた。
「あの、一応ですがそれは命の危険があったりしますか?何があっても良いのですが、クロと一緒に居られなくなるのは困りますので……」
『大丈夫。もうやった』
「やった?加護を?私に?」
『やった。これで長生き。魔力もあがった』
「あ、ありがとうございます!」
一瞬、リズ様に何を言われたのか理解できなかったが、確かに胸の奥が暖かくなって、溢れ出る何かが大きくなった気がする。
もう一度胸の前に魔力を出してみると、今までとは比べ物にならないぐらいの量がスムーズに出すことができた。
枯渇寸前だったはずなのに、自分の顔の大きさぐらいの大きく丸い魔力の塊が浮いている。
「リズ様。お礼の品です」
『うむ』
さすがに少し気だるさが出てしまったが、胸の前の大きな魔力をそっとリズ様に差し出した。
カリカリカリカリと部屋にリズ様が魔力を貪る音だけが聞こえ、その姿に多幸感を覚えた。
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