08.冒険者クロ、ジュリアとの時間を楽しむ
この1週間、俺とジュリアはまったりと迷宮を楽しんでいた。
あれ以来、ジュリアとはただの友人の様に接している。
互いに恋愛という雰囲気になるのを避けていた。
基本は剣術のみで戦っていたが、1週間程度で20階層まで進んだ俺達は、協力しながらオークやブラックベアなどの大型の魔物を討伐していた。
20階層とは言え、たまにレア素材がドロップすることもあるのでそれなりに稼げた。
小さな怪我でさえすることもなく進む俺達は、ポーション関係も使わないのでそれなりの稼ぎにはなっている。
ジュリアは普段3人で30階層程度を主戦場にしているようだが、2人ならこの辺で充分だろうとさらに下層に移動することは無かった。
「なあ、冒険者のイロハを教えるって言ったけど、俺は何か教えたることはできたんだろうか?」
お昼休憩がてら小部屋に座りそう言って首を傾げるジュリア。
「まあ、色々?」
「なんだよ色々って……クロは実はベテラン冒険者だろ?俺についてこれてる時点で白とか絶対嘘だろ?ってか、あれだけ依頼をこなしてたら普通に階級上がってる」
その問いには苦笑いしか返せない。
「まあ、色々あるんだよ俺も」
「なら、仕方ないな」
俺の曖昧な返事に納得してくれるジュリア。
「さて、後半戦行くか?」
「おう!」
こうして午後の探索を再開した俺達。
「あ……」
暫く20階層で魔物を狩っていた俺の脳内マップに急に赤いマーキングがいくつか現れたことに気付く。
その動きは巡回するようにぐるぐると固まって動いている為、魔物ではなく人なのだろうと感じ取る。
盗賊?いや、素行の悪い冒険者なのだろう。
その数は徐々に増えている。
「ジュリア、今日はもう終わりにしよう。変な輩達が巡回しているようだ」
「ん?クロは索敵系の魔法も使えるのか?」
「ああ。そうなんだが……素行の悪そうな輩が結構な数で動いているようだ」
「そうか。では一旦さっきの小部屋に戻るか?」
小部屋に戻り出るのがいいが、すぐにでも出た方が良いかもしれない。
「いや、すぐに出よう。くそ、さっきケチらずにマーキングしとけば良かった」
「なあ、やっぱ勿体ないから小部屋まで行こうぜ!何かあったら俺が絶対守ってやるからよ!」
そう言って笑うジュリアに絆され小部屋へと移動を開始した。
だが、赤いマークが次第に俺達を囲むようにして距離を詰めて来ている。
あっちも索敵と通信具などを使って囲い込みをしているようだ。
ターゲットは俺とジュリアのどちらかなのだろうが……
十中八九俺だろうな。
「ジュリア、ダメそうだ」
「えっ、マジで?」
そういった直後に、通路の先から男達が姿を現した。
「やっと見つけたぜ!」
男の1人がそう言うと、後ろからぞろぞろと出てくる男達。
こうなると脱出札は使えないだろう。
脱出札はパーティ全員が体の一部を触れた状態で使うものだが、密集した状態では事故防止の為に使用できない仕様となっており、使う時には2~3メートル程距離をおく必要がある。
「すまん。クロの言う事を聞くべきだった……ここは何としても食い止めるから、クロは先に逃げてくれ!」
そう言って俺の前に出る。
だが、もちろん俺にその気はない。
仕方がない、よな。
俺はジュリアの肩を引き、立ち位置を入れ替える。
「あの男に見覚えがある。やっぱり俺の事情だった。巻き込んで悪いな」
俺はそう言ってから男達の集団に向かって走り出した。
「クロ!」
背後からジュリアの叫び声が聞こえたが、俺は構わず先頭にいた男の頭を掴むと力いっぱい地面へと叩きつけた。
「何しやがる!」
例の男、この街に来た時に俺が拳をつぶした男がそう叫ぶ。
「相変わらず、お前は……バカなのか?」
「うっせー!皆さん、礼金は弾むので思いっきりやっちまってくだせー!」
男は周りに向かってそう声を掛ける。
その声に反応するように大声をあげながらこちらへ突っ込んでくる男達。
それを剣で難なく捌くと3人の男の腹を裂き蹴り倒していた。
こちらを窺っている男達を睨みつけ牽制する。
このレベルなら欠伸をしながらでも殺れそうだ。
「お、おい!この女がどうなっても良いのか!」
その声に反応して振り向くと男の1人にジュリアが拘束されていた。
「クロ、ごめん……呆気にとられて油断してた。俺の事はいいから、そのまま逃げてくれ!」
俺はそれを見てため息をついた。
「リズ」
小さく呟いた俺の言葉とほぼ同時に、『リズキーック』という声と共にパキンと音を立て、ジュリアの首筋に当てられたナイフは外側へと飛ばされた。
リズの声は俺にしか聞こえないから、男にはきっと何かの魔法だと思われただろう。
「<
ジュリアを包み込むように
「<
男達は呻きながら次々と押し潰されていった。
何人か逃げ出したが、そいつ等を順番に
ジュリアはその光景を口を開け呆けた様子で眺めている。
『そうやって力を隠して、私の事を馬鹿にしていたの!』
『クロくん、怖いよ……もう一緒にはいられない。ごめんね』
『ひっ!悪魔!人殺し!近づかないで!』
『お願い……何でもするから、私を殺さないで……』
過去に言われた言葉が脳内に繰り返される。
「――― クロ!」
ジュリアの呼ぶ声に気付きハッとする。
そして、目の前にいるジュリアの次の言葉を、怯えの混じった心で待っていた。
また、拒絶されるのか……
「クロ、お前って強かったんだな!ごめん、俺、勝手に弱いと思ってた。いや、そうだよな!確かに立ち振る舞いにも隙が無かった気がする。うん……いや、そんなことよりもだ。まずはありがとう、クロ!」
ジュリアそう言ってはにかんだ笑顔を見せた。
「いやーまさかクロがあんなに強かったなんてな。思わず呆けてしまった。普段ならあんな輩に無様に捉えられたりしない!本当だぞ?俺は、普段ならもっとうまく……って聞いてるかクロ!俺は……」
真っ赤になって言い訳を並べていたジュリアは言葉を止めた。
「クロ!なんで泣いてるんだ!あっ怖かったのか?そうだよな。強いとは言ってもまだ子供!そうか、そうだな、怖かったか……よ、よし!お姉さんが特別に抱っこしてやろう!さあ、こいっ!」
俺は頬に手をあてると、自分が泣いていたことに気が付いた。
そしてまだ赤く染まった顔のまま、鼻息荒く両手を広げるジュリアを見て……
どうしても我慢ができず吹き出していた。
「あっ、おい!なんでそこで笑う!」
「いや、ありがとう。俺を嫌わないで……怖がらないでいてくれて」
「な、なんだ!俺はもっと強くて粗暴な冒険者をいっぱい見てきた!クロは悪くない!悪いのはあいつ等だ!死んで当然の奴等だったぞ!後な、今回はただ、突然でびっくりしただけあって……」
そんなジュリアを、俺は抱きしめポンポンと頭を撫でた。
「こ、こら!子ども扱いするな!」
そしてすぐに突き飛ばされてしまった。
頬を膨らませているジュリアはとても愛らしく見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます