06.冒険者クロ、久しぶりの非ソロ迷宮


 俺はなし崩し的にジュリアに冒険のイロハを教えて貰う事になった。


「ちなみに俺の階級は茶だ!安心して任せてくれ!」

「あ、ああ。任せた」

 俺はそう言いながらエルサに視線を送っていた。


 今度は吹き出すのを堪えたようだ。


 この世界では冒険者の持つカードには初心者の白から順に、緑、茶と上がり、茶なら一人前、そこから中堅冒険者である青、上級では銀、国の依頼を受ける一握りが金となる。

 金級は今現在この王国には、俺の知る限りでは3人しかいない。


 青ぐらいからその冒険者に敬意を籠めて、かは知らないが青級、銀級、金級冒険者と言われている。

 じゃあ俺は黒級冒険者か?


 こうして、意気揚々とジュリアと一緒に迷宮へ入る俺。

 無難に小鬼などを剣で倒していると、ジュリアは感心したように拍手してくれた。


 その事に恥ずかしくなり、流石に弱すぎるからサクサクと先を進めることを提案し、初日で5階層まで下りると、時間も頃合いとなり次回転移用のマーキングを休憩ポイントに指定して迷宮を出た。

 迷宮には大抵魔物の入り込まない休憩用の小部屋があるので、冒険者はそこにマーキングしてから退避札を使って外に出るのだ。

 次回からはそのマーキングに転移できる。


 初日を終えた俺達は、戦利品の中からギルドに依頼が出ている素材のいくつを納品し、銀貨2枚を受け取り近くの食堂へと向かった、


「今日はジュリアさんに付き合ってもらったから助かったよ。ここは俺が出すから適当に注文してほしい」

「何言ってんだ!クロもそこそこ実力はあるようだが、新米は何かとお金もかかるだろ?ここは俺が出すから!安心して食べなさい!」

 ジュリアの言葉にグッときながらも、俺はお金に困ってないと金貨を小声で無限収納インベントリと呟き金貨を掌に乗る程度の数を出して見せる。


「今の、収納魔法インベントリか?」

「ああ。俺は剣より魔法の方が得意でな」

「そ、そうか。収納魔法インベントリを使えるなら御貴族様とかにも仕えることができるな。確かに、お金に困っていないのは分かった」

「ああ。だからここは俺が……」

「だがしかし!新米冒険者ということには変わりない!ここはやっぱり俺が出そう!」

 俺の心をグッと掴んで離さないジュリアの言動に唸りそうになるが、平常心を装って奢られることに決めた。


「じゃあ、今回は奢ってもらおうかな。次回は俺の依頼報酬で、先輩冒険者様に感謝を込めて奢らせてくれ」

「お、ぐっ……そうか。それは、楽しみだ」

 なぜか突然顔を赤くしたジュリアに、そのギャップもいいね!と叫びそうになった。


 その後、出てきた料理を楽しみながら、迷宮でのことを思い出しながら話を続けた俺達は、気付けばジュリアの身の上話になっていた。


 ジュリアは一応男爵家の出身で、跡取りの兄がいるので自分は王国騎士にでもなろうかと幼い頃から剣を鍛錬をしていたという。

 魔法については一応水属性の魔法に適性があるものの、精々自身の擦り傷を治癒する程度だと言う。

 飲み水用にとコップ1杯程度の水を出せばもう魔力切れになる程度しか魔力は無いようだ。


 結局、女だからと騎士にも成れず冒険者として生計を立てているようだ。

 一応、女性の王族達に仕える道もあったようだが、外敵の居ない場所でただひたすら傍に立っているだけの仕事と、聞いて自分には無理だと悟ったらしい。


 確かに聞いているだけで退屈そうだ。


 適度にお腹を満たした俺達は店を出る。


「クロは今夜の宿は決まってるのか?なんなら俺の部屋にでも……」

「ジュリア?そこの宿を確保している。俺は、大丈夫だから」

 ジュリアの提案に乗ってもいいかな?と思った俺だが、気付いた時にはその言葉を遮るようにして自分の宿を指差していた。


 今日の朝、フロントで1泊の値段を確認したら朝食込みで金貨1枚と言うので金貨10枚を先渡しして確保している。


「そうか!そうだよな。あの宿はいいよな!俺もたまーに泊まる……泊まったことはある。うん。クロならあのぐらいも余裕なんだろう!」

 ジュリアは真っ赤になりながらしどろもどろになっているその様に、ドキドキしてしまうのは男のさがであろう。


「一緒に、泊まるか?」

「お、あ……」

 つい口走ってしまったが、ジュリアは戸惑っている。


「冗談だよ」

「そ、そうだよな!その手には乗らんからな!俺はそんな手に引っかかるほどアホじゃーないぞ!」

 顔をパタパタと手で扇いでいるジュリアはとても愛らしかった。


「じゃあ、また明日な」

「お、おお!明日な!今日は早く寝るんだぞ!」

「はいよ」

 少し甘酸っぱさを感じながら別れた俺は、早々に風呂から上がると布団に入る。


『良い雰囲気だった』

「おい」

『押せばいけた』

「お前な……勢いだけでやっちまうと、後々すげー大変なんだぞ?」

 そう言いながら魔力の塊をホイっと投げると、リズはすぐにそれに飛びつき齧りついていた。


「おやすみ」

『うますみ』

 リズの返事になんだそりゃと思いながら、俺は高ぶる気持ちを無理やり落ち着ける。


 過去には勢いで仲を深めたこともあったが、やがて来る別れはつらい物だった。

 俺と他の人では生きる時間軸が違う。


 俺はもう、愛する人が老いて嘆き悲しむ姿も、取り残されてしまう孤独感も、愛してたはずの女が俺に敵意を向けるのも、感じたくはなかった。

 そう思いながら俺は、布団をかぶり目をぎゅっと閉じ眠りについた。




 翌朝、冒険者ギルドに行くと昨日と同じように笑顔のジュリアが待っていた。


「おはようクロ!今日も稼ごうな!」

「おはよう。じゃあ今日も冒険のイロハ、よろしくな!」

「ぐぷっ」

 俺はこめかみをピクつかせすまし顔のエルサを見る。


 確かに今の俺のセリフはあかんかったと思う。

 だが、変なテンションになったのだから仕方ないだろう。


「おはようございます。ジュリアさん、クロくん、昨日に引き続き仲がよろしい様で何よりです」

「おう!おはようエルサ。クロとは仲良くはやってるぞ?なあクロ」

「あ、ああ」

 俺はそう答えながら目を細めてエルサを見ていた。

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