05.冒険者クロ、姉御肌の女騎士が好き


 朝日を浴びつつ目を覚ます。


 どうも息苦しいと思ったら、またリズが俺の鼻にへばりついて寝ていた。

 妖精は眠らないし不可視にしておけば人は干渉できない。

 なのでこれは完全な嫌がらせであろう。


「ふん!」

 俺は鼻息を荒くしてリズを吹き飛ばしてやった。


『クロ、ひどい』

「リズ、ひどい」

 俺はオウム返しをした後、リズ用の朝ごはんに魔力の塊を部屋の隅に放り投げた。


『うまうま』

 いつもの様に美味しそうにそれを食べだしたリズ。


「リズ、無駄に寝るなら顔の周りはやめなさい」

『うま、分かった、うま』

 この様子だとリズはまたやりそうだ。


 着替え終わると食堂へ向かいお腹を満たす。

 今日もいつも通りの黒っぽい布鎧に見えなくもないただの服のみというシンプルな服装をしている。

 ただし、この服には万が一の保険として、耐魔と耐刃の保護を付与している。


 昨日も受付時には同じ格好だった為、受付のスタッフからは不信な目を向けられたが、金貨を2枚程カウンターへ置くと急に態度を変えた露骨な宿ではあった。

 だが晩飯がかなり旨かったので気にしないことにした。


 見た目を楽だから、という理由だけで防具無しにしているのは自分自身だからだ。

 それなりの高級宿であろうここで働く者達が、俺がお金を払える客なのか不信に思う気持ちは分かる。


 金貨は地球の価値なら10万程度になるだろう。

 2枚あれば高級宿でも十分足りるはずだ。

 他には銀貨は1万、胴貨は1000円、その下に100円相当の小銅貨と言うのもある。




 お腹を満たした後、宿を出て冒険者ギルドへ移動する。

 迷宮には行くとして、まずは依頼でも見てみるかな?


「おはようございます」

「クロ様、おはようございます」

「エルサさんだっけ?クロ様は止めてくれるかな?」

「畏まりました。クロくん」

 受付のエルサから不意に笑顔でクロくん呼びをされ、そのギャップにグッときてしまう。


 平常心を装って近くにある依頼ボードに移動する。

 ギルドに依頼された案件が張り出されているボードだが、それなりの人だかりができている。


「結構混んでるんだな」

「そうだな」

 急に近くから返事されビクっとしてしまう俺。


「ああ、すまん少年。少し驚かせてしまったな!」

「あ、ああ。気にしなくて良いよ。ボーっとしてたのは俺、だ……」

 声の方に顔を向けると、その声の主に戸惑ってしまう。


 肩までのふんわりウェービィな青い髪、銀の鎧を着こなした女性。

 その鎧の隙間からは程良く鍛え上げられた筋肉が垣間見えた。

 腰には長い剣を帯剣しているので、女剣士……いや、女騎士様だ。


 そしてその言葉遣いからは、間違いなく姉御肌なお姉様だ!

 ストライクゾーンにど真ん中な女性が目の前で笑っていた事態に、俺は脳内でしっかりとガッツポーズをしていた。


「どうした?」

「いや、何でもない。それより君は?」

「俺か?俺はジュリアだ!この街を拠点にしている冒険者だ。少年は?」

 ジュリアと名乗ったその女性に少年と言われてムッとして見せる。


「俺はクロ。だが少年ではない。もう18だ」

 本当は年齢不詳だけどな。と思いながらそう答えてみせる。


「そうだったか!すまんなしょ……クロくん、でいいんだな。改めてよろしく!」

「あ、ああ」

 やっぱり直球火の玉ストライクであった。


「クロくんはソロかい?」

「ああ、一人だな。この街にも昨日来たばかりだ。ジュリアさんは?」

「俺は一応パーティ組んでるが、あっちで依頼完了手続きしてる。紹介するから来いよ!」

「あ、俺は……」

 強引に手を引かれる戸惑うが、まあ嫌な感じでは無い良いのか?と流れにまかせ、手を引かれながら目の前で揺れるぽよよんを眺めていた。


「おいジュリア!ガキを攫ってきちゃだめだろ!」

「ちげーよ!俺はただ……すまん、クロくん。迷惑だったか?」

「いや大丈夫。俺もまだ街に来たばかりだから勝手が分からなくてな。色々教えてくれたら助かる」

「ほら見ろ!困ってる新米冒険者がいたら助けるのは当然だろ!」

 ジュリアの言葉にカウンターの方から「ぶはっ」と吹き出す声が聞こえた気がするが……ちらりと見るとエルサは正面を見てすまし顔であった。


「新米って、クロくんだっけ?冒険者の階級は?」

「それは……」

 どうしようかと思案していると、横からまた声が飛んできた。


「クロくんは白です」

「あっエルサ、ありがと!クロくんはやっぱ白だったな。そっかそっか、俺の目利きも満更でも無かったわけだ!」

 俺は勝手に口を挟んできたエルサを軽く睨むが、エルサはまた正面を向いてすまし顔であった。


「いや、クロくんが新米なのはその装備みりゃ分かるだろ!」

 俺は今、ギルドに入る直前に装着した鉄製の剣のみである。


「そんなことは無いだろ?……ほんとだ!」

 俺の姿を改めてを確認した後、驚きの声をあげるジュリアに俺は思わず吹き出しそうになる。


 お前はどこぞの大物芸人か!


「まあいいや!クロくん、一緒に迷宮に行こう!」

「いや、迷宮は行くが俺はまず依頼を……」

「大丈夫だ!ここの迷宮の上層向けの依頼は全部頭に入っている!任せてくれ!」

「いや、まあそれなら……いいのかな?」

 俺は、勢いに負けてうなずいてしまった。


 元々依頼を受けに来たのだから間違ってない、はず…… 


「おいジュリア!ガキの御守は1人でやってくれよ?それにそいつの頭……」

 パーティメンバーと思われる男は、俺の頭を見てから言いづらそうに口を噤んだ。


 この世界では、俺のような黒髪黒目は闇魔法を得意としいる者も多く、あまり良く思われていない。

 もちろん、闇魔法には束縛系など補助系の魔法も多く魔物と戦うにも便利な魔法が多いが、どちらかと言うと呪術師として人を呪うことを生業にしている者も多いようだ。

 男が嫌悪感を持つのも当然であろう。


「なんだよ……まあいいか!良し、おねーさんが冒険のイロハを教えてやる!」

「ああ、任せたよ。おねーさん」

「ぶっ」

 俺の返事にカウンター側からまた吹き出す声が……視線を向けると当然の様にすまし顔だった。

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