04.冒険者クロは律義に報連相


 お腹を満たした俺は、冒険者ギルドでカードを出す。


 受付のお姉さんは一瞬戸惑うが、カードを読み取り機で確認する。


「エルサと申します。少しお待ちくださいませ」

 そう言うと頭を下げ奥へと早足で消えていった。


 比較的良くある対応だ。

 暫くすると厳ついギルマスが頬を引きつらせつつ手を揉みながらやってきた。


 体も大きく2メートルはあるんじゃないだろうか?

 スキンヘッドに目は赤黒い。


「部屋へ、いいでしょうか?」

 眉は赤いから髪を伸ばせば赤髪のいい男……かもしれない。


「あの、聞いてますでしょうか?」

「あ、ごめんごめん」

「では、ご案内します」

 ギルマスの後ろを追って部屋へ移動した。


 対面でソファに座るがギルマスの座るソファがギシリと鳴って壊れそうだなと思った。


「クロ様、ギルドマスターを務めておりますダミアーノです。何しろ初めてなもので、お手柔らかにお願いします」

「ああ。俺はクロだ」

 一瞬偽名を考えたが、いい加減面倒になった俺は普通に冒険者名を名乗る。


 過去にはクロードやクロウなど似通った名を名乗った事もあるし、アーノルドやシュワルツ、トムやクルーザなど適当な時もあったが、途中で忘れてしまったりもしていた。

 そろそろ面倒になってきた頃合いだったので、今後はクロでいいのかと思い始めていたところでもあった。

 そもそも、クロと黒霧は一般的にはイコールではない。

 なら良いかという精神で今後はクロで統一しようと考えていた。


 そうさ、ずっと考えていたのさ。

 とっさに言われて素で答えてしまっただけではないのだ。


「そんなに畏まらなくても良いよ。この街に暫く滞在しようと思うんだけど、確かここ、迷宮あったよね?

「ああ……はい、ございます」

 受け応えが定まらないギルマスを見て、俺は顔を引きつらせながら苦笑いする。


「本当に、普段通りでいいよ?俺に害が無ければ特に問題ないから」

「はい……ああ。助かる」

 戸惑いの後、ギルマスはホッとした表情へと変わる。


「後、差し迫って問題事は無さそうかな?」

「特にはねーな……ねーです」

 恥ずかしそうにするな。


 このダミアーノと言うギルマスは、俺を笑わせに来ているのかもしれない。


「普段通りでいいってば。笑っちゃうし。で、暫くは滞在するから何かあったらよろしくね。街の問題事とかあれば一応気に掛ける様にはするから」

「ああ。すまんな。助かる」

 その後、ダミアーノに見送られ部屋を出る。


 そのまま真っすぐギルドを出よう……としたのだがその前を遮る輩が現れる。


「おぉい、兄ちゃん!ホワイト野郎がギルマスと知り合いってことは、どっかのボンボンなのかなー?なら俺に、ちょーっとばかりお小遣いを融通してくれねーか?色々あって金欠でよー!」

 世紀末覇者のようなモヒカン野郎は、背後に2人の仲間を背負って現れた。


 ホワイトというのは俺の冒険者カードの事だろう。

 1メートル程離れると真っ白に見える特殊なカードで、ホワイトであれば新米冒険者という奴だ。

 目立たない為の細工だが、今回の様に逆の意味で目立ってしまうこともある。


「俺にお前のような厳つい弟はいない。人違いだろ?」

 そう言って横を通り過ぎようしたが、後ろの男が俺に掴みかかろうとする。


 伸ばされて手を掴み、軽くひねって指を折る。

 同時に睨みつけていたので、顔を強張らせ呻くような小さな声を漏らし蹲る。

 それを見て、背後の2人はそっとその場を離れた。

 薄情過ぎて可哀そうになる。


「お前!いきなり何しやがる!」

「いきなりはそっちだろ?お前、バカなのか?」

 涙目の男は俺の煽りに負け、真っ赤に顔を変色させ殴りかかってくる。


 俺は男の繰り出した拳を掴み、そのまま握りつぶした。


「ぐぎゃー!痛い!死ぬ!殺される!たす、助けて!」

 指が折れている手で砕かれた拳を押さえ泣き喚く男。


 周りでは遠巻きに様子を伺う冒険者達。

 興味を失った俺はそのまま立ち去った。


◆◇◆◇◆


「なんだ、あれは……」

 カウンターから離れそう呟いたのは、常闇の黒霧監視員何もしちゃダメな子の男だ。


 遠目からは真っ白に見える冒険者カード。

 だが、その後の対応を見てブラック、つまりは黒霧だと確信した男はその状況をじっと観察する。


 そして黒霧と思われる男に絡んだアホは、ものの見事にぶっ壊された。


 それを見て男は思った。


(確かに昨夜『黒霧に気を付けろ』と伝令があった。黒髪黒目でホワイトなカードでギルマスが出てきちゃうちょっと不思議な光景も確認できた。だがあれが黒霧?どう見てもまだ成人したばかりぐらいのひ弱そうなガキじゃねーか。

 もちろんさっきの立ち回りを見た限りでは、俺では到底かなわないのは決まり切っている。だが、うちのトップ連中だって相当な猛者もいる。そいつらも黙る程の強さなのか?)


 疑問に思ったが、男に任されているのは"何もしないこと"だ。

 男は見ているだけで良い。


 男は自分の役目を思い出し、ギルドを出た黒霧を追った。

 もちろん黒霧には"すぐに気取られる"と言われているが、それでも"何もしなければ大丈夫"とも言われている。

 あまり近づき過ぎず、敵意を出さず、男の後を追い今日の宿を確認した。


 男は黒霧の入って行った宿に向かって、黒霧が見ているか分からないが一礼して見せると、距離を取り懐の通信用の魔道具により本部に黒霧の到着を報告をした。


 そして男は思った。

 今日はここで野宿かよと……


◆◇◆◇◆


 宿を取りベッドに腰掛け一息ついた。


 尾行は居たな。

 どうせあの黒エルフの手の者だろう。



「黒霧様、貴方の邪魔はしませんから、粗相が有ったら躾て下さい!」

 そう言って顔を赤らめた少女の見た目をしたダークエルフの女を思い出す。



「ま、気にしてもしゃーない」

 そう言って久しぶりの湯船に浸かる。


 明日は迷宮へ行こうかな?

 そんなことを考えながら寝間着に着替えて布団に入る。


「<分析アナライズ>」

 布団の中でカードを取り出し確認すると、結構な額が残っている。


「まだ結構残っているな。でも素材屋にもいかなきゃならないし……」

『無駄遣い?』

 呼んでもいないのに姿を見せたリズ。


「リズ?俺が作成クリエイトする武具は無駄ではないんだよ?いずれ使う為の武具を作っているんだ。どんなものでも、きっといつか使うはずさ」

『いっぱい持ってるよね?』

「用途が違うんだよ、用途が……ほら、ご飯あげるからリズも早く寝な」

 そういって魔力の塊を作りベットの脇に投げ置くと、リズは『うまうま』と齧り始めた。

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