03.クロと山賊と秘密結社


 時刻は深夜を少し回った頃。

 辺りの空気に変化が生じるのを、寝ていたはずのクロは敏感に捉えていた。


『クロ』

「ん、分かってるよリズ」

 周りからこちらを窺う視線を感じ目を覚ましていたクロはリズに短くそう返す。


 辺りは真っ暗であるが月明かりにより多少の視界は確保できている。

 もっとも、例え闇黒であったとしても、俺には問題なく見通せる目を持っているのだが……


 小声で何かを話している声が聞こえた。

 そろそろかな?


 そして、何者かが静に駆けてくる振動を感じた次の瞬間……


「いだっ!」

「何やってる!」

「なんだ?これは、どうなってる!」


 突撃して結界シールドにぶつかる者、遠くで怒鳴っている者、結界シールドをベタベタさわり混乱している者がいる。

 ぞろぞろと出てきたのは10名ほどの、恐らくは盗賊だろう。


「いや?山の中だから山賊か?」

 そんなことを言いながら首を傾げる。


「おいお前!死にたくなかったらこれを解け!」

 近くの男が大きな剣を構えそう叫ぶ。


「バカなの?」

「何を!」

 俺の言葉に怒鳴り返す男を見て、わざとらしく口に手をあて煽ってついてみる。


「これに阻まれてるからあんたら攻撃できないんだろ?それを解けって?やっぱバカだろ」

結界シールドの中で胡坐をかいた俺は、両手を軽く広げ体の横で天に向ける。


「こっのぉー!命が惜しかったら今すぐ金目の物を置いて去れ!運が良ければ助けてやる!」

 顔を真っ赤にしながらそう言う男を呆れ顔で見ている。


「なあ、あんたらは山賊ってことで良いんだよな?」

「は?」

 男はきょとんとしならが声を漏らす。


「そ、そうだ!ここら一帯を荒らしまわっている悪名高い盗賊団、山神の一族とは、俺達のことだ!」

『クソダサ。やっちゃえクロ』

 リズが冷たい目でどっかの一族達を見る。


「りょーかい。<鋭砂の嵐サンドストーム>」

 結界シールドの外側に黒い砂の粒が渦を巻き、辺り一帯を通り抜けていった。


 周りからは男達の汚い悲鳴が響き、そして穴だらけとなった亡骸が地面に転がっていた。

 一応、この周辺には索敵サーチ分析アナライズにより一般人はいないことは確認済みだ。


「このままじゃ魔物のエサだな……<業火ヘルファイア>」

 辺り一帯を真っ赤な炎が渦を巻き、辺りのすべてを焼き焦がし消失させる。


「こんなもんか……」

 キョロキョロと周りを見渡し、少し見通しの良くなった辺りを確認する。


 そしてまた布団をかぶり眠りについた。




 翌朝、スッキリと目覚めた俺は、無限収納インベントリから朝食にとサンドイッチを4つほど取り出すとかぶりつき、お腹を程よく満たした。

 魔力を消費するとどうしてもお腹が減るので補充をしなければならない。


 俺は大きく伸びをした後、荷物を全て無限収納インベントリに入れ、俺は山道を進み、北西へとさらに進んだ。



 お昼を少し過ぎた頃、目的地であるライラという街が見えてきた。


「ここも久しぶりだな」

 そう独り言を言いながら活気のある港町を遠目に眺めた。




「うっめー!」

 街に着いた俺は、海沿いの食堂で海産物を山の様に注文し、次々と口へ放り込み腹ごしらえをしていた。


 こういった町では新鮮な海産物はもちろん、アンチョビやナンプラーなんかもあるからそれらも買っておこうと思っていた。

 料理はほとんど出来ないが、不味い飯に当たった時にはそれらで適当に追加して誤魔化すことも多いので大量の調味料をストックしてある。

 その結果、却って悪化することも多いが『自分で料理した奴はなんかうまい!』という謎理論でそれなりに食べれることも多かった。


 目の前の料理も充分に満足できる味だと嬉しくなった俺は、さらに大量の追加注文をした。

 もちろん無限収納インベントリに収納する為であった。


 それを見た周りはドン引きしていたが、気にせず食べ続けるクロであった。



◆◇◆◇◆



某国某所。


「何、王国の南東の街で黒霧を確認?そんでもってその街、エーリュで活動中のグループが消滅したと?」

 両手に腰をあてた少女が目の前に跪く黒づくめの男にそう確認する。


「はい」

 その男は頷いた。


「くっそー!暫くエンカウントしなかったじゃないか!何をやってるんだ!」

「どうやら、今回はギルドに寄る前にサクサクっと刈られたようで」

「なら、仕方ないか……」

 少女はため息をつく。


 組織のボスである少女は、拠点のある街の冒険者ギルドには必ず調査員を置く様にしていた。

 さらには街の中にも対黒霧用の絶対に手を出さない監視員を置くように指示をしている。


「後、近くの山賊も巻き込まれて全滅したようです。街では山が燃えたと結構な騒ぎになってました」

「まあそれは良い。ライバルが減るのは嬉しいからな。もうしばらくはあの街には来ないだろう。至急、空いている人員、そうだな、黒霧はどっちに移動した?」

「ライラ方面と聞いてます」

「ならその先一帯の奴等には潜伏を、後何人かはこっそりエーリュに移動させよ!最初は大人し目に、本格的に活動再開するのは2週間程経ってからだな!」

「かしこまりました!」

 小さく頭を下げた男は、足早に部屋を出ていった。


「ふぅ」

 思わずため息をついてソファへ腰かける。


 この世界で一番大きな犯罪組織の元締めである見た目は少女なダークエルフは、天井を見ながら彼是と思案していた。


「いっそ、黒霧を仲間に取り込めないかな?」

 そう呟いて再度脳内シミュレーションを繰り広げた後……


「無理か……」

 そう呟いた。


 秘密結社誰でも知ってる常闇森神トコヤミエルフ、通称『常闇』。

 全世界的に有名な子供でも知っている秘密結社(笑)である。


 子供たちは言いつけを守らないと常闇が勧誘にくるよ!と言われ、悪い事をすると黒霧に刈られるよ!と教えられると言う。


「そうだ!奴は見た目がぜんっぜん変わっていないよな!……もしやとは思っていたが、やっぱりエルフだったりしないかな?それなら私にもワンチャンあるかもしれない!」

 そう言って自分の無い胸をもんでみる……


「エルフであれば……脂肪の塊なんぞに興味はないはずだ!エルフが重んじるのは大量の魔力と美しい魔力操作、私だって魔術を極めるため厳しい修行を……よし!今度近くに来た時にさりげなく近づいて……ぐふふふふ」

 彼是と脳内で妄想したナディアは、部下には見せられない表情になり涎をたらしては袖で拭っていた。


 ナディアは興奮を抑えれぬままに足早に私室に戻ると、一人トレーニングに精を出すのであった。


 だがナディアは知らなかった。

 黒霧は歴とした人族であり、見た目の幼い女性には Don't touch を貫くGentleなMenであることを……

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