02.冒険者クロ、黒霧と呼ばれて
ギルマスや倉庫担当者が見守る中、俺は倉庫の中央へ手を翳す。
「<
他の者達が驚く声をあげる中、
最後にひと呼吸おいて、少し離れた場所に女性達の亡骸を出す。
全てが終わった後、その場の者達は何も言えなくなっていた。
「盗賊達は40名程、全部殺して放置している」
そう告げると、ギルマスは「わかった」と短く返事した後、倉庫の担当に後を任せ、受付近くまで戻って行った。
そして、冒険者達に向かって声を張る。
「緊急依頼だ!亡骸運びだが人数が必要だ!報酬は銀貨5枚で10人までとする!力自慢の男は名乗り出ろ!」
その言葉を聞いた冒険者達は仲間内で話合った後、我先にとギルマスの元へ走り寄り事情を聴いていた。
10分もしない間にその男達を連れ、ギルマスは出ていってしまった。
「観光どころではなくなっちゃったな」
そう言いつつギルドを出ると適当な食堂にふらりと立ち寄る俺は、それなりに旨い飯を堪能できたので今日のところは満足であった。
「そうだ、この街にも迷宮もあったな!……まあ、いいか」
この街に残るとまた面倒になりそうなので街を出る事に決め、食堂を出た。
そして、北西へと海岸沿いに次の街を目指して旅を続けた。
◆◇◆◇◆
「ギルマス、いい加減説明してくださいよ!あの黒いカードは何なんですか?結局あの男性、もう町に居なかったですし、報酬も受けとってないんですよ?」
盗賊の遺体回収から戻ってきたギルマスを問い詰める受付のお姉さん。
「報酬については履歴からあのカード宛に、適当な額を振り込んでおけばいいだろう。金貨10枚程度でいいんじゃないか?」
「そんな適当でいいんですか?」
お姉さんは呆れた表情で受付カウンターによしかかりため息をついている。
「ああ。だが、あれの事は外部に漏らしちゃいかんぞ。あれは黒霧という二つ名を持つ男だ」
「黒霧?それって……もっと詳しく教えてください!」
「どこからともなく現れる旅人。名は毎回変わる……今回は偽名を聞く暇すらなかったがな。あの黒い冒険者カードはその見た目の通りブラックカード。読み取れる冒険者名はクロ。
だが、そのカード関連の秘密を漏らした者はもれなく牢獄行きって奴だ。お前も聞いた事ぐらいあるだろ?悪い事したら黒霧に刈られるって……」
ギルマスが受付内にある魔道具を操作している。
どうやらブラックカード宛に振り込み操作をしているようだ。
「確かに黒霧って子供の頃に親にそう言われてますけど、秘密を洩らせば牢獄行きって事は、王国はこのことを知ってるってことですよね?」
「ああ。そもそもブラックの発行は、黒霧、冒険者クロが活動する為に王国が用意した黒霧専用のカードだ」
「唯一、ですか?」
「ああ。一般人には秘密だが、俺達は黒いカードを渡されたら黙ってそれを受付機に通す。それが本物であったなら何も言わずにクロに全て従えばいい。そう聞いている……まさかこんな田舎町にもう一度くるなんてな」
「もう一度って……以前も来たことあるんですか?」
「俺の先代が担当したらしい」
ぼそりと言ったギルマスの一言にお姉さんは首を傾げる。
「先代って確か……」
「80年前だ」
「それって変、じゃないですか?あの青年、どう見ても……」
「何も聞くな。俺も知らん」
二人の会話は重苦しい空気と共にそこで終わった。
◆◇◆◇◆
俺はクロ。
本名は黒木雅也。
ほんの数百年前までは地球の日本というところからやってきた、いわゆる転移者という奴だ。
ある日、山を散歩していたら急に深い森の中に移動した。
本当に気付いた時には「暗すぎじゃね?」と叫んだぐらい一瞬だった。
そして、そこで出会った精霊リズに付き纏われた挙句、うっかり契約し不死の体を手に入れることになってしまった。
リズとの契約の時には、うっすらとこの世界にくる寸前の記憶が脳裏に浮かんだ。
自称、神という男に、願いを言えと聞かれ「魔法をいっぱい使ってみたい!」と返答し、その結果、俺はこの世界に召喚され、<無限の魔力>という称号と共に魔法を使い放題にできる体に作り替えられた、らしいという事を……
そして、なんとかなるかな?とこの世界を自由気儘に旅している内に、『精霊と契約すると死ぬ』と言い伝えられていることを知る。
リズにその話の事を聞くと『普通そう』と教えてくれた。
できれば先に言ってほしかったかな?
そんな事情もある為、恐らくだが精霊憑きはこの世界に俺だけだろう。
契約の際には俺の無限の魔力を贄にして、リズが俺の脳内に万物の知識を好き勝手に流しこまれ死ぬかと思ったのも今では懐かしい思い出だ。
その結果、俺はあらゆる魔法が使えるようになった。
その後、調子に乗った俺は王都では未踏破であった迷宮の最深部を攻略し、瞬く間に王都で一番有名で、一番の金持ちになった後、あらゆる者達から声がかかり、そして数々の陰謀に巻き込まれた。
その結果、俺はブチギレて逃げ出した。
貴族街を半壊にさせて。
その後、国王とこっそり面会し、目立つことは控えるから特別なカードを作ってねと優しくお願いし、それに国王が冷や汗を流しつつ了承した結果、1週間経たずにブラックカードと呼ばれる黒いカードが作られた。
王宮魔導士達が結束して作り上げた不壊が付与された俺専用のカードであった。
魔力を流せば黒く変色し、他の者の手に渡っても1時間程度経過すると俺の手元に戻ってくる優れもの。
不本意ながら何度か貴族に奪われその機能を発揮したが、その度に関わった貴族家が不幸に見舞われたので、貴族連中には代々ブラックカードにはかかわるなと言い伝えられているという。
悪い事しなけりゃ何も起こらんと思うんだけどな。
そんな感じで、俺はこのカードさえ出せば後は野となれ山となれな感じで旅を続けている。
たまに長期滞在で惰眠を貪ったりしているが、この大陸を粗方周り終えている俺は、今も何週目かの放浪を楽しんでいる。
様々な面で変化を楽しめるだろうと、内心ワクワクしながら……
「とりあえず今日はここにするかな?<
薄暗い中、こっちの方が近道だ、と入ってきた山の中腹に座り込み、
そして、取り出したいくつかの鉱石を魔法でこねくり回す。
「うーん、命名、揺り籠の槍、かな?」
俺は出来上がったばかりの槍を収納する。
ちゃんと出来ていれば槍の先から弦の様に伸びた魔力の網で、対象物を包み込み持ち上げ重さを消失させる槍だ。
「明日の朝、試しに使ってみよう。今度からこれを使えば女達を運ぶ時にも不自然じゃないだろう!まあ次に同じような事態は早々無いとは思うがな」
そうつぶやいた後、食事の用意をして寝た。
『うまうま』
リズには拳大の魔力の塊を与えてあるので、俺のすぐ横でそれにカリカリと齧りついてご満悦である。
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