歴史は繰り返す

ボウガ

第1話

少女は、人工的な皮をもった果物の縁に手を触れる、底には赤いビニールがガイドとしてはりついており、それをびりっとひっぱると、簡単に中身が取り出せる。

「やっぱり、財閥様々だわ、大企業が先進的なイノベーションを起こすので、私たちは便利な暮らしができるのだもの」

 お姫様のような優雅な見た目の少女だった。それに反して一般的なむさくるしく垂れたような顔を持つ父親は注意を促した。

「やめなさい、そんな行儀がわるければ、共産主義者のようになってしまうよ」

 お母さんがテレビを傍目にみて、反省を促すようにつぶやいた。

「歴史は繰り返すというでしょう?共産主義者の戦争に勝てたからいいけれど、今度また、資本主義陣営が負けるともしれない、油断してはいけないのよ、勉強にはげみ、ちゃんと感謝をしないと」

「はーい」

 弟は椅子の足をがたがたとやりながら、わくわくしながら真空パックの中で生き生きと脈うつ人工肉に目を向ける。涎をさらにたらすと、汚らしいものを見る目で、少女は目を覆った。


 その夜だった。弟の悲鳴で体を起こす。ベッドから起きて下へあがると、母と父は、リビングのテーブルのあたりでうろうろしていた。

「もう来てしまったのか」

「どうして下の子から?」

「奴隷を欲している、労働力を雑に扱うくせに、新しい労働力を欲するんだ、彼等に多くの資産を奪われたのがいけなかった」

「お母さんたち、何をしているの?」

「……すまない」

「ごめんね」

「「私たちは偽りの家族だ、それでも私は愛していたよ、私たちは死と病を人生から遠ざけるために“システム”を選んだ、けれどこれは、彼等の教育のためのシステムなのだ」」

 テレビがついた。また良心に目を向けると、良心はいくつもの人のてによって天井にひきあげられ、二階にも屋根にも、丸くえぐられた穴が開いていた。そんな状況にもかかわらず、少女はテレビに興味をひかえれた。聞き覚えのある声。

「ひい!」

 母親は服の裾にてをやられた。少女が今朝消費した果物のように、あらゆるばしょに赤いビニールがあり、そしてみぐるみをはがされると、薄汚い軍服を着た男が軍服をぬぎ、パンツ一丁になって鞭をとりだし、振り上げた。

「きゃあ!」

 その瞬間、テレビのチャンネルがかわった。どうやらリモコンをふみつけたらしい。そこでは父がみぐるみをはがされ、皮膚についたビニールをはがされると、醜い男の“皮膚”をかぶせられた。

「さあ見なさい!私は共産主義財閥の母、皆の母カーサよ!私があなた方に見せるのは、この資本主義者のふしだらな生活、そして共産主義をすてた世界がどうなるのか、彼等はヒトやモノを、自分の奴隷のように扱う、そして自分の命さえもね!」

「フグッ!」

「豚のように泣け!」

「フギッ!」

 父は手を踏みつけられた。

「彼等は我々のデザインした人形、我らの奴隷、自分たちがいつ死ぬかも選べず、その代わりにほかのあらゆる存在を消費対象としてみている、我々は死を遠ざけてはいない、共産主義を否定した彼等に何がまっているか、よくみておきなさい!」

 ムチをふりあげたところで、少女はリモコンを手に取り電源のスイッチを切った。

いつのまにか、家の執事がたっており、声をかける。

「ヒッ!」

 肩に触れると、執事のパーマのかけられた頭部が半分くずれおちていた。その中から機械的な頭部が現れた。

「お嬢様、あなたは選べます、歴史は繰り返すのです、幾度もの戦争でこうして支配システムは何度も入れ替わってきた、しかし、個人は選べます、あなたはどうしますか?彼等のようで残忍で、人間の階層がはっきりとわかれた世界、それとも他人を浪費し、あるいは浪費される、死と危険を自分の眼のまえから遠ざけた世界と、どちらがよろしいですか?」










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

歴史は繰り返す ボウガ @yumieimaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る