大晦日の実感の仕方

@Tetleythebest

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「ちょっと外出るね」

そう言って私は勝手口の鍵を上下とも開け、簡単なサンダルを履いて外へ出た。

ピンと張った空気が、火照った顔を思いがけず優しく撫でた。真っ暗で、車の音も遠くでしか聞こえなかった。

「大晦日のにおい」私は小さくつぶやいた。なんと言い表したらいいのか分からないのだが、この冷たくて軽い、しかし重厚な雰囲気を感じる空気は、やはり大晦日にぴったりなのだ。私はこれを逃してはいけないと、思い切り深呼吸をした。暖房で温まった身体に、冷たくて新鮮な空気が入っていくのが分かった。

部屋着で家の前の道路へ出ても、誰一人通らないので安心した。このまま周辺を歩き回ろうかと思ったが、万一ご近所の方にお会いすると恥ずかしいのでやめておいた。

家の周りを行ったり来たりしながら、周囲の家を見つめる。電気のついている家、ついていない家、マンションには廊下の電気がついていた。きっとみんな家でのんびり紅白でも観ているんだなあ、そうでなければ帰省かな。などと考察する。

空を見上げると、思った以上に星がよく見えた。東京も今日ばかりは、お店の明かりが少ないらしい。オリオン座だけでなく周囲の星々も顔を見せていて、全部で十数個はあった。東京育ちのものだから、十数個の星で満足なのである。経済だ。写真はどうせちゃんと星を捉えられないので、自分の肉眼にしっかりと焼き付けた。星の明るさと色は、本当に星の数ほどあるのだなと、小学理科の知識をしみじみと感じた。

「今年もお世話になりました」

どこの誰に向かって言っているのかも分からないが、そう挨拶するのが正しいように思ったのだ。

「来年もよろしくお願いします」

もう一度深く深呼吸をしてから、私はゆっくりと歩いて家の中に戻った。鍵を閉めながら、外がいかに寒かったかを理解する。

「大晦日だねえ」

居間でみかんの皮を剥いている母に、私はそう言った。

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