お星さまのかけら

精霊せいれいだったら、アストレアにけばえるんだけどなあ」


 なが回廊かいろうあるいている途中とちゅうで、青髪あおかみ少年しょうねんった。

 

 アストレアというのはかれ故郷こきょうで、もりみずうみまもられたちいさなくにだ。

 精霊はひとおおくてごちゃごちゃしたところをきらうらしい。たしかに自然しぜんかこまれた場所ばしょならば、精霊はひそんでいるのかもしれない。


「アストレアに精霊がいたって、どうにかできるわけないだろ」

つかまえて、つぎに会うときにいっしょにつれてくる」

「そんなのはやくても半年後はんとしごだぞ。レオナはわすれているか、ものすごくおこっているかのどっちかだ」

「そうかなあ」


 のんきなことを言い出す幼なじみに、赤毛の少年はためいききたくなった。

 

 レオナは王国おうこく王女おうじょなのに、王宮おうきゅう別塔べっとうめられてひとりぼっちだ。

 少年たちは王国につかえる騎士きし家系かけいで、王家おうけからあずかった領地りょうちおさめている貴族の子どもだ。


 十歳じゅっさい九歳きゅうさい。王都の士官学校しかんがっこうかようにはまだはや年齢ねんれいだ。父親ちちおやれられて王都にやってくるのは、ねん二回にかいだけ。


 いつも十四日じゅうよっかくらいの期間きかんで、そのあいだふたりは幼なじみの王女のあそび相手あいてになっている。


「うん。じゃあ、やっぱりしろの王宮で精霊をつかまえよう」


 ずいぶんかんたんにものを言う幼なじみに、赤毛の少年はあきれた。

 そもそも精霊にでなくて、というかんがえがどうかしている。とりかごにでもめるつもりならば、いくらなんでも精霊がかわいそうだ。


「まずはお星さまのかけら、だね。きょうはいいお天気てんきだったから、きっと星がたくさんられるよ」


 そう言って、片目かためをつむって見せた彼に、赤毛の少年はいや予感よかんがした。




        †




 赤毛の少年がベッドにもぐりんですぐに、ノックもなしに彼は勝手かって侵入しんにゅうしてきた。


 だいたいこうなるだろうと思っていたのでおどろかない。でも、年上としうえらしくちょっとくらい怒ってもいいのではないかと、そう思う。


「ディアスだって、レオナが泣くのはいやだろ?」


 泣かれるのが嫌というよりも、泣かれると面倒めんどうだとは言わなかった。

 それに面倒なのはひとりだけじゃない。この青髪の少年はけっこう頑固がんこなのだ。

 

 少年たちふたりはベッドをけ出して、大人たちに見つからないようにそろりそろりと回廊をすすんで行く。庭園ていえんまでたどりついたところで、幼なじみはから小瓶こびんした。なんだかとても嫌な予感がする。


ながれ星がちてきたら、ひろってここにれるんだ」

「このばかっ! また風邪かぜをひきたいのか!」

「だいじょうぶだよ。きょうはゆきだって、ふっていないし」


 そういう問題もんだいじゃない。


 半年前はんとしまえに王都にきたときは雪がたくさんった。

 彼の故郷こきょうであるアストレアでは、雪が降らないからめずらしかったのだろう。年下の幼なじみたちは雪あそびを思いきりたのしんだ。


 でも、つぎの日に彼は高熱こうねつを出して寝込ねこんでしまったものだから、レオナはわんわん泣いて大変たいへんだった。そのことをわすれているのだろうか。


「ほら、ディアスもちゃんとお星さまを見て。星が落ちてくるところ、見のがしちゃうだろ」

 

 どうして幼なじみはレオナのことになると、これほど頭がかたくなるのだろうか。

 赤毛の少年――ディアスは頭をかかえたくなった。

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