無垢なる竜姫の少女と精霊の騎士

朝倉千冬

三つのアイテム

精霊せいれいをつかまえるのは、みっつのものがひつようなのよ」


 おさななじみがきゅうにへんなことすのは、いつもことである。

 なにしろ彼女かのじょかれらよりもすこし年下とししたで、おとぎはなし幻想的げんそうてき物語ものがたりしんじてやまない年頃としごろだ。


 それにしても、と赤毛あかげ少年しょうねんおもう。

 精霊にではなくてだなんて、いかにもおさななじみらしい。精霊たちは人間にんげん世界せかい存在そんざいするけれども、ごちゃごちゃとした街中まちなかきらうし、人間たちをこわがるきものだ。


 それでも、好奇心旺盛こうきしんおうせいな精霊だっているかもしれない。

 ここは王都おうとのおしろのなかで、たくさんの大人おとなたちがいるところ。まぐれでめずらしいものたさにまぎんだ精霊に会えるのかも。


 ――などと、さきほどからもりあがっている幼なじみふたりだった。


 ここで、そんなものいるわけないし会えるわけもない。だなんてくちせば、きっと大変たいへんなことになる。


 なにしろ彼女はまだまだ子どもなのだ。七歳ななさいになったのだからちょっと大人になったのだと、本人はそう思い込んでいる。大人とは、なにをってうのかと、少女より三つ年上としうえ少年しょうねんかんがえる。


 本当に大人だったらちょっとしたことでかないし、怒らないし、へそをまげたりしない。


 大人たちの言うことだってちゃんときくし、夜遅よるおそ時間じかんにもきていないし、わがままばかり言わずにがまんだってする。


 本当ならば、かえる時間をとっくにすぎていた。

 それなのに、幼なじみふたりはひたいがくっつきうくらいに夢中むちゅうになって、絵本えほんをのぞきんでいる。


あおはなびら。おほしさまのかけら。きよらかなみず

「そう。この三つをね、あつめるのよ」


 青髪あおかみの少年がつぶやいて、青髪の少女が絵本をゆびさす。

 ふたりは髪色かみいろをしているけれども、ふたりはべつに兄妹きょうだいというわけではない。ふたりは幼なじみ。そして領主りょうしゅ息子むすこ王家おうけ姫君ひめぎみ


 ちいさな姫君は領主りょうしゅというものがわからないらしくて、「りょうしゅって、なあに?」からいつもはじまるので、うっかり彼女のらない言葉ことばとすと大変たいへんだ。


 あのときは、なんて説明せつめいしただろうか。

 貴族きぞく公爵家こうしゃくけ。そんなものは彼女にわからない。でも、ちいさな姫君ひめぎみ騎士きしという言葉ことばは知っているようだ。


 いつか、きみの騎士になるためにここにきたんだよ。


 そう言うと、彼女はにっこりとかわいらしいみを見せてくれた。どうして攻撃こうげきもここでおわり。だけども、少年たちはべつにうそいてはいないのだ。ふたりは騎士のたまご。それは本当ほんとうなのだから。


 そこでノックのおとがして、少年たちのむかえがきた。

 

 たのしい時間じかんはおしまい。ここからがいつも大変だった。

 ちいさな姫君は幼なじみたちともっとあそびたいと、わがままを言う。泣いている彼女にさよならを言うのはとてもつらい。また明日あしたあそびに来るといっても、それはちいさな姫君とってすごくながい時間なのだ。


かえらなければ、さがしにけない」


 赤毛の少年は、ちいさな姫君が泣くのが苦手にがてだった。

 だからとっておきの声を出して、彼女が泣くまえに青髪の少年のうでった。


 さあ、ここからが大変だ。

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