幼馴染とコタツでつんつんつんつん

小絲 さなこ

※※※


 コタツ──それは一度入ったら出られない、悪魔の暖房器具。

 そして、恋人たちにとっては周囲に知られることがなくイチャイチャできる秘密の暖房器具でもある。


 ま、俺に恋人はいないんだがな。




 

 ふと窓の外を見ると、雪が舞っていた。

 俺は今、二十年を超える付き合いの幼馴染とふたり、コタツに入ってぬくぬく過ごしている。

 彼女の実家のリビングは、俺にとって我が家同然だ。なんせ物心つく前からの付き合いだからな。 

 ダラダラとテレビを観ながら、幼馴染がミカンの皮を剥いている。

 これぞ日本の冬。

 とくに応援している大学はないが、なんとなく流している箱根駅伝。

 あぁ、正月って感じするなぁ……


 彼女が皮を剥いたミカンを半分に割り、広げたティッシュの上に置いた。一房ずつ白い筋を取り、再びティッシュの上に並べていく。

 俺はそのうちの一房をつまみ、自分の口の中に放り込んだ。



「ちょっと、ねぇ!」

「ん?」

「それ、私が剥いたやつ!」

「うん。知ってる。ありがとう」

「そうじゃなくて! なんで食べちゃうのよ!」

「え、俺に剥いてくれてるんじゃないの?」

「なんでだよ。私が自分で食べるためだよ」

「そっか。悪い悪い」


 むくれる彼女に「ほれ、あーん」と、ミカンを一房差し出す。


「あのねぇ」

「食わねーの?」

「……なんか、毎年こんなやり取りしてる気がする」

「そうだっけ」


 唇に押し付けると、彼女は仕方ないといった表情で口を開け、ミカンを受け入れた。


「餌付けに成功したぜ」


 揶揄うように言うと、脛に衝撃が走った。


「いってぇ!」


 コタツの中で見えないはずなのに、的確に狙うとは。こいつ、なかなかやるな……

 この程度のことに本気で反撃するようなガキではないので、つま先でつんつんと足を突いてやる。


「なによ!」


 彼女もつま先だけでつんつんと反撃してきた。


「さっきのミカン返して!」

「それくらいで怒るなよ」

「せっかく綺麗に筋取ったのに!」

「この筋って栄養あるらしいぞ。取らない方が……」

「私は取りたいのっ!」

 


 体勢を変え、だがコタツから出ないまま、互いのつま先を合わせ、押し合う。


「ふんぬー! うちのコタツから出ていけー!」


 彼女のつま先が、俺の足の裏をグッと押した。

 あ、これは……


「あぁ……気持ちいぃ〜」


 突然、攻撃が止んだので彼女を見ると、呆れたような、軽蔑したような表情。


「え、もう終わり? いい感じにツボが刺激されてスゲェ気持ち良かったんだけど」

「あんたが変態だってこと忘れてたわ」

「俺が変態なら、世界中の男全員変態だぞ」

「…………」

「ほんとほんと。男はみーんな変態なんだよ」


 俺は籠からミカンをひとつ取った。

 ティッシュを敷き、切れないように頑張って剥いた皮を広げて置く。


「ヒトデ☆」

「はいはい」


 いつもそれやるよね、という反応をされてしまった。

 ミカン一房をつまみ、彼女の口元に差し出す。


「なに?」

「なにって……さっき俺が食った分のお返し」

「いらない」

「即答!」

「筋、綺麗に取ってくれるなら貰ってあげてもいいけど」

「へいへい」


 仕方なく、筋を取ってやる。

 気分は猛獣使いだ。


「ほれ、口開けろ」



 そんな俺たちのやり取りを見ていた彼女の母親が一言。


「あんた達、本当に仲良いわねぇ。いつ結婚するの」



 あー、それは、俺にはプロポーズする勇気がまだなくてですね……ちょっと先になると思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幼馴染とコタツでつんつんつんつん 小絲 さなこ @sanako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画