第2話 茶臼山 2
日が昇る前に冷えた空気を吸う。
6月の初旬。茶臼山の高原は冷えている。
ここから東西に分かれてエルフ狩りをしていく。
長野県はエルフが多い。県議は9割エルフだし、5年前に独立宣言をしそうになったほどだ。
「寒い……」
「おー頑張りんよ、岡田ぁ。エルフはすばしっこいでね」
「はい」
P90を抱えて集合するとそのまま、解散させられた。
70人の中隊の指揮を取り、西から長野県に向かう。
走り回るエルフを射撃し迎撃されても背後から岡田中尉が射撃していく。
「……」
「ヒト殺しは初めてか」
「はい」
エルフ、ハイエルフ、ドワーフ、オーガ、獣人には人権が認められている。
だからこれは、人殺しである。
暗い顔を見せる岡田の背を叩く。
「やらなきゃやられる。日本からエルフ国をだすわけにゃいかんら?しゃんとしりん」
「はい」
息を吐き、岡田は真っ直ぐに前を見る。
中隊を率いて再度走る。
「進め!進め!進め!!」
怒号と共に銃声が響き、俺たちを迎え撃つためにエルフの抱えているM250が火を噴く。
バリアを張りそれにぶつかる実弾が音を立てて落ちて行く。
こちら側から鉄の玉を魔力を込めて放り投げた。
十分な魔力が込められたそれは地面に着く寸前で爆発する。
バラバラになったエルフの部隊を眺めてそれから走り始める。
走り始めて数時間。
エルフの部隊を駆逐し長野県側に抜けるとそこには東側から回り込んだ中隊が虐殺されていた。
東側から向かった部隊には魔術師はいたがほんの3人。エルフの部隊は全員が魔術師だ。
此方にすぐ気づきこの遠さで炎の玉を発射していた。
「まじか。岡田あ!気合い、いれりんよ!」
「は!」
斜面を走り抜け、射撃しながら走る走る走る。
西側のエルフと違って魔術師の練度の高いエルフたちはバリアを張り、銃火器は届かない。
さらに近づきP90を背負い、コンバットナイフを抜くと魔術で身体強化をほどこし加速して音速まで加速してエルフのバリアを叩き割りエルフの一人の体をバラバラに砕くと次を睨む。
首を掻き切り更に次。
銃声と共にエルフたちが倒れて行くと次々とエルフを殺していった。
エルフは倒れているのも粉砕したのも合わせて60。
ならこれは中隊だったはずだ。左官クラスがどこかにいたはずだが、今となってはどうにもできん。
「はあ」
キィンと超音波を出すと生存者を探す。
心臓の早鐘を打つ音が聞こえそこに走り出す。
「生きてとったかん」
だが、見たその軍人は半身が焦げ、目は絶望が浮かんでいた。
「……とどめを」
「まちん。大丈夫、俺が助けるでね」
心臓の音が小さくなっていくのを感じ取りながら魔力を練る。
手のひらで練った魔力をその軍人の胸に当てた。
ポンと音を立て軍人はあっさりと綺麗な体に戻る。
「もう痛くないかん」
「あ、けど、作戦が、島風少佐」
癒しの魔術はかなりの魔力を使う。だが、俺には、そう、ごく一部の上層部しか知らないことだが関係のないことだ。
だからあっけからんと笑って、血に濡れたその頬を撫ぜた。
「生きるしかないら。頑張りんよ、朝凪中隊の生き残りだら」
「は、はい!」
追いついた自分の中隊と合流し先に進む。
「いくに」
「自分たちだけで大丈夫ですか」
本当は東側から回って来た朝凪中隊と合流ののち、強襲する作戦だった。
だが、朝凪中隊はひとりを残して全滅。なら俺たちだけでやるしかない。
「俺が潰すでね。まあ、お守りのドッグタグ握っておきんよ」
「はい?」
長野県に入り踏み荒らしているとエルフたちが慌ててM250を抱えてこちらに銃口を向けるものの先にこちらが銃殺するほうが早かった。
飯田市の南端。そこにエルフが大量にいる。それも今日は、県議会議員のエルフの一人がいるのだ。
今しかない。今日しかない。長野県を解放するのは早い方がいい。
基地につくと俺は怒鳴る。
「ドッグタグ!」
「はっ!」
万が一があってはならない。中隊の俺を除いた全員がドッグタグを強く握る。要領を得ない岡田だけが不思議そうに握っていた。
「【サイレント】」
キィイイイインと言う超音波が響きわたり目の前の基地が崩れ落ちる。
そう、文字通りに崩れ落ち、中からエルフたちがわらわらと出てくるのを眺め、音速で走り出す。
長野県議会議員の一人、リーランド・トマケマ。
黄金の髪をなびかせこちらを青褪めた顔で見たのを見て、嗤う。
「人間舐めとるとこういう目に遭うに」
エルフの青年の襟ぐりを掴んで中隊の位置まで戻る。
生かして戻るのはこいつだけ。
「お、かえりなさいませ」
「こいつみときん」
「殲滅を手伝います」
「お前はしんでいい。こいつ、捕まえときんね」
「……は」
しょぼんと項垂れる岡田を放置し塩の山からバラバラに離れて行くエルフをターゲティングする。
マーカーをつけ、走らせる。遅い奴から順番に音の炎で燃やし尽くし、ゆっくりと後を追う。
ひとりのエルフが次の中継地点に行くとその場でそのエルフは悲鳴を上げて塩の柱になった。
「なんだ!?」
「どういうことだ!?敵襲だ!!」
残りのエルフをすべて殲滅したのち、音速で移動しその塩の柱になったエルフの塩を踏む。
「で?偉いのは誰だん」
「ひっ!音!音だ!鼓膜を破れ!!」
はい。偉いねー。
冷めた目で、エルフたちが魔術で鼓膜を破るのを眺めた後でにこりと嗤う。
「まあ、意味ないだけどね」
襲い掛かって来たエルフが絶叫を上げて塩の柱になった。
「ははははは!音は“振動”なんだに。知らんかったかん」
そう音の神髄は“振動”。怖いのは聞こえないほう。
攻撃性の超音波は大半エルフなら聞こえる。だから、鼓膜を破るのは悪手。
恐怖で震えるエルフの将軍がこちらに指を向ける。
「【フォイエル】」
ずどんと四方八方から銃弾が飛んでくる。
だがそんなもの、呪文を唱える時点でバリアを張ればいいだけ。もちろん、消費魔力は多いが、俺には関係ないことだ。
テントが破れ、散り散りになった地点にたって、腰抜かすエルフを悠然と見下ろす。
「“振動”?ば、馬鹿な話だ!なんで、人間ごときが……?」
「そん話はどうでもいいで、お前は連れてく。偉いだら?」
「く、そ」
エルフの将軍を拘束して魔術強化をほどこすと音速で中隊の位置まで走り切る。
ぶわっと風が吹き、俺は砂嵐を巻き起こしながらエルフの将軍を放り投げた。
「……うぉ」
「そいつは中将だで、尋問の準備しときんね」
「あ、はい」
青褪めた2人のエルフを連れて念のため東側から回りこんで残存勢力を潰しながら進軍した。
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